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2016.09/22 企画を成功させる(6)

高純度SiCの技術について他社が実施できなかった理由は、特許部から研究所へ戻られたI次長のご指導の貢献が大きい。基本特許が公開される前に特許戦略に基づく出願計画を示され、特許を書く作業をアドバイスされた(職制上は上司ではなかった。ただ当方の立場とテーマの状況をご判断されてのこと。この方に関しては、少しドラマめいた話がある。)。
 
研究開発における特許戦略を本格的に学んだのはこの時が初めてである。I次長の説明は大変わかりやすく、高純度SiC紛体を製造するに当たり、重要となる技術についてすべて抑えることができた。
 
このとき、SiC化の反応とSiC回収の冷却ゾーンとを分けた電気炉の発明も書いている。アイデア特許であったが、先行投資を受けてから、この発明に基づく電気炉を生産炉として開発している。
 
今、政府の方針はモーレツ社員撲滅であるが、この頃は、睡眠時間4時間未満で多数の特許を書いていた。しかし留学中でもあったので残業代はもらえなかった。その数年後FDを壊されるような妨害にあい事態を収拾するために転職することになるが、この頃はそのようなことを想像すらしていなかった。ただ真摯に企画の成功だけを祈って特許を書いていた。
 
経営方針とは合致していても所属組織内では歓迎されない企画というケースでは、個人の負担が大きくなる。個人の犠牲を払ってまでも推進するのか、という問題については、個人の価値観に依存する問いである。また、個人の犠牲を払ってまでも努力する社員をどのように処遇するかは会社の風土で変わる。個人の犠牲を払ってまでも仕事をやられたのでは会社として迷惑だ、という会社もある。
 
ワークライフバランスの導入でこのような仕事のやり方が無くなるのは良いのかもしれない。個人の犠牲を払って仕事をしても決して報われないからだ。ましてや、企画が成功しつつある最後の段階で、FDを壊されるような妨害をされたのではたまらない。
 
だから無理な企画推進はしないほうが良い、と他人にはアドバイスするが、努力して成功した時の達成感はものすごい。麻薬の経験は無いが、週刊誌などに書かれている麻薬の快感よりも気持ちが良いと思う。住友金属工業とのJVが立ち上がり、未来の確実なマーケット情報まで見通せるようになった瞬間の気持ちの余韻は今でも残っており、苦しい業務でも頑張れるエネルギーの源になっている。成功体験が重要と言われる所以だろう。
 
<ポイント>
ワークライフバランスなど働き方の見直しが政府中心に進められている。人間らしい生活と仕事のバランスをとる、といえば当たり前に聞こえる。しかし、誠実真摯に仕事に打ち込むときに、人間らしい生活を犠牲にしなければならないときがある。その時に躊躇無く、ワークライフバランスを崩す勇気があるかどうかで企画の成否が変わる。個人の犠牲など無く、誰もが楽に企画という業務を推進できるのが理想の組織だが、実際の現場では理想からほど遠い状態だ。あとは個人の価値観になる。企画の成功を目標に掲げたら、徹底して推進する覚悟が重要である。FD事件が起きたとき、ゴム会社を辞める決断をしたのは、すでに事業が立ち上がり、組織も動きだし、テーマを担当したい人も出てきて当方でなくても事業推進が可能になったからだ。このとき功労者に正しく報いるような会社ならば、次から次と新事業が生まれる風土となる。逆に誠実真摯に努力した社員を見殺しにするようでは、会社の未来は暗いだけでなく、さらに悲惨な出来事も起きるような風土となる。
 

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