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2016.10/09 電通新入社員の過労死

電通新入社員の過労死が労災として認められたという。この事件についてWEBには様々な情報が公開されているが、誇張を割り引いたとしても上司同僚の冷たさが伝わってくる(注)。当方もゴム会社で12年間勤めひどい仕打ちも経験した。転職理由は責任感からだが、12年間の生活における人との交流において良い思い出のほうが多い。中にはFDを壊し仕事の妨害をするような明らかに悪い人もいたが、その人達を凌ぐ優しく優れた人材が多かったからだと思っている。
 
辛い生活の中にもホットする出来事が日常に有ったので12年間勤めることができ、今でもゴム会社に悪い印象は持っていない。むしろ実務能力の多くの部分をこの厳しい会社で鍛えられ、サラリーマン最後にはカオス混合技術を開発できるほどの能力をつけてくれたことに感謝すらしている。ゆえに半導体用高純度SiC事業に関し、特許報償を求めることもせず、ただその事業の成功を祈ってきた。
 
ゴム会社に比べ写真会社は優しい人が多かった。学んだことは少なかったが、おそらく写真会社は日本の会社の中でも勤めやすい会社ではないか。電通事件で異常な点は、新入社員に残業100時間を超える業務を押しつけている点である。少なくとも公開情報からは、そのような情景しか見えてこない。
 
残業100時間といっても実際には月200時間以上だった可能性がある。当方も新入社員時代に10月に配属され担当した樹脂補強ゴムの仕事が面白く、1年の仕事を三ヶ月で仕上げる野望を持ち、会社で寝泊まりして業務を遂行した思い出がある。残業申請していたなら100時間をはるかに超えていただろう。
 
新入社員のため残業手当がつかないから定時で帰るように指導社員から毎日のように指導されたが、こっそりと残業をして2ケ月半で成果を出すことに成功した。午前中座学で、学んだことを実際に午後には体験できるという仕事が楽しかったのだ。専攻が合成化学だったので、まともなレオロジーの講義など受講した経験は無かった。理論とそのシミュレーション、そして実際のデータに裏打ちされた説明は、さらに新事実が生みだされる予感とスキル不足の不安との揺らぎの振幅を大きくする迫力があった。
 
自ら進んで行っている残業は辛くはなく、そのうえ周囲は早く帰れと気を遣ってくれるので、毎日の疲労感は無かった。時折指導社員から、仕事が早いな、と褒めていただけるのも励みになっていた。そんな自分の新入社員時代と対比すると、自殺された方の職場環境があまりにも悲惨である。
 
社会に出て1年も満たない知識労働者は、いくら優秀であったとしても道具としての組織をうまく使えない。実務を通して初めて身に着けられる技だからだ。少なくとも指導社員は一年間毎日生活の指導をしなくてはいけない。新入社員はその指導を通して初めて組織と言う道具を使いこなし実務ができるように成長する。
 
ゴム会社の職場環境も褒められた状態ではなかったが、さらに米国タイヤ会社買収後は悲惨な状態へ変貌していった。おそらく自殺された新入社員の職場環境は、その最悪な状態よりももっと劣悪だったのかもしれない。
 
睡眠時間を削って仕事に励むときに、それが自らの貢献と自己実現のためならば、残業代などいらない気持ちになる。実際に当方はゴム会社でほとんど残業申請などしなかった。しかし、自殺された電通社員の方は知識労働者としての尊厳も否定されていたのかもしれない。WEB情報から、地獄のような職場環境が見えてくる。もし若い人で同様の職場環境の方は弊社へご相談ください。天国から地獄まで経験したサラリーマン人生を基に無料でアドバイス致します。
 
(注)電通は大きな組織である。大きな組織では、その下位の組織ごとに風土が形成されることがあるので、今回の事件をもって電通そのものをブラック企業と判断してはいけない。当方が12年間勤務したゴム会社の全体の風土はKKD一色に見える体育会系の明るい企業で、創業者の精神が生きていた。しかし、配属された研究部門は、社内でも「雲の上の人々」と呼ばれるぐらい異なる風土だった。そこでは、科学的なロジックこそすべてであり、KKDは軽視された。しかしそのような部門の中にも、実技を重視する侍社員もいて、指導社員はそのような人だった。
おそらく今回報じられている電通の事件はその部門特有の環境から生じたのかもしれない。今回の事件でもって電通という企業の評価とするのは正しくない。電通にもすばらしい人物は多い。多様な人材が揃っているからこそトップになれるのだろう。
ところで大きな組織では職場異動も可能だが、上司同僚の巡り合わせが悪い時には転職を考えた方が良い場合がある。上司には部下を選ぶ裁量が認められているが、部下には上司を選ぶ自由度は無いのである。部下を持ったなら、まずこのことを真摯に考えなくてはいけない。30年以上前の当方の指導社員は当方が初めての部下だった。レオロジーの基礎知識を大学の先生よりも懇切丁寧かつ実技とともにご指導くださった。当方はその熱意に応えたくてサービス残業を自主的に行い、成果を早くだそうとしていた。そのような環境では苦労も楽しいのである。社会人のスタートでその後の仕事のやり方、働き方が決まる、ということを新入社員を迎えた組織は銘記すべきである。
 

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