2017.01/12 高分子材料(6)
ニコンF100は、同社のデジカメD2Hを使用し始めた頃から防湿庫に静置したままだった。ただ最近防湿庫もいっぱいになってきたので、昨年暮れに使用しないカメラを下取りに出そうと整理をはじめた。その時裏蓋のフックが壊れているのを見つけた。
10年以上防湿庫に入れたままで使っていないのに破壊するのは明らかに設計ミスである。しかし、このような設計ミスをしている製品は世の中に多い。但し、品質保証期間は1年なので、10年以上経って壊れる現象はメーカーの責任ではない、と一応言うことはできる。
ところが、ニコンのカメラは10年以上経っても壊れないのが常識と思っているユーザーも多いのではないか。**のカメラならば10年経過して壊れていても仕方がないとあきらめることができるが、ニコンは大丈夫、という神話が存在する。だから高くてもニコンカメラを買うのである。
中古の下取りもニコンカメラは高い、と思っていたらF100は1万円以下の価格だそうだ。フックが壊れたF100はジャンク扱いになり値段が付かない。仕方がないので、オプションをつけたときに外した裏蓋を取り付け、また防湿庫にしまった。
ただし、最初についていた裏蓋もフック部分は樹脂製なので、裏蓋のフックをかけないまま保管している。裏蓋のスプリングでフックがクリープするのを防ぐためである。結局防湿庫から出すことができたのは、ペンタックスのフィルムカメラ2台だけだった。
高分子のクリープ(注)をシミュレーションするのは難しい。昔のダッシュポットとバネによる粘弾性理論が破綻したのもこのクリープという現象のためである。高分子のクリープは、メーカーの神話を破壊しただけでなく科学の一分野も使えない理論として葬り去った。
(注)クリープ現象は、その成形体にかけていた応力が次第に緩和する現象として観察され、金属やセラミックス、高分子などあらゆる材料で起きる。金属のクリープは原子を玉と考えることで比較的モデル通りの考察が可能だが、高分子のクリープは複雑である。絡み合っていた紐が次第に緩んで抜けて行くモデルでシミュレーションできそうだが、この紐の絡み方がプロセシングの影響を受けるので、実験データを示すのが難しい。また、今では土井先生のレピュテーションモデルなど進化した成果が存在するが、30年以上前は粘弾性をダッシュポットとバネでシミュレーションしていた時代である。当時ゴム会社で聞いた伝説として、ゴム会社からM大学へ転身されたT部長の部下の実験の様子がある。T部長は理論家で粘弾性モデルでシミュレーションされたデータと一致する実験データを部下に求めた。クリープや粘弾性データでそのような実験データを得ることは至難の技だ。シミュレーションの値に近いデータが出るまで何度もその部下は実験をやらされたそうだが、クリープの実験では時間がかかるので、ある日部下は捏造データをグラフに示したという。そのデータを見たT部長は、このようなデータが得られるはずがない、と言って部下を叱ったという。T部長はクリープのシミュレーション結果と一致しないデータを求めていたのだ。上司と部下の巡り合わせは運だが、この伝説を話してくれたのは理論屋で上司だった。当方は運が良かった。
カテゴリー : 高分子
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