2017.01/14 高分子材料(8)
非晶質でガラス転移点を有する物質をガラスという、というのがガラスの定義だが、これを知らない材料関係の学者もいる。「**教授」という名刺を頂いた先生で5人の方がご存じなかった。
300名以上アカデミアの先生から名刺を頂いているので割合から言えばごく少数だが、ガラスの定義を知らずに高分子ガラスをどのように授業で講義しているのか心配になった記憶がある。
ガラスという物質の状態の呼称は、無機材料分野から高分子材料分野へそのまま適用された呼び名である。高分子材料のガラスは、無機のガラスと少し様子が異なるが先に述べた定義を満たす。
無機材料では非晶質状態にはなるがガラスにならない物質も多い。しかし、高分子材料の非晶質は一応皆ガラス状態を有する。だから高分子のDSC(熱分析法の一つ)を初めて測定したときにTgが現れなかった衝撃は大きかった。但しこれはSTAP細胞のような大発見ではない。時々起きるので会社で大騒ぎすると恥をかく。
DSCでTgが出にくい場合には、Tg付近で温度変化にブレーキをかけるテクニックを使う。このテクニックを使うと必ずTgが描かれたチャートが得られる。捏造と言われそうだが、あるべきTgの描かれていないDSCチャートをそのまま学会発表で使用すると質問が飛んできて右往左往することになる。
これは捏造ではなく、高分子のガラス状態を無機のガラスと同じという認識を維持するための生活の知恵のようなものである。Tgがうまく出ないときに直前にSTOPキーを5分ほど押し、その後計測を再開すればきれいなTg曲線が現れる。
但しTgがなぜ現れないことがあるのかは科学の問題だが、実務ではあまり深く考えなくても良いと思っている。昔の夫婦漫才では地下鉄をどこで埋めたのか問題にしていたが実務でこのTgの現象を問題にするとこの漫才同様に結論を出せない。
この現象以外に現代の高分子科学で説明しにくい状況をたくさん見てきたので、アカデミアの先生が説明しにくい問題を実務で深く考えるな、とアドバイスしたい。それよりも先日書いた疲労破壊のような失敗をしないように実技を重視した品質管理を十分に行った方が良い。
F100のフックが壊れた問題は、例えば品質評価試験において裏蓋のスプリング強度を強くした耐久試験を注意深くしていたなら防げた問題である。高価なデータパックが防湿庫に10年ほど静置されていただけで壊れたショックは、それがニコン製という理由で大きい。フィルムカメラの裏蓋は静置状態で絶対に開いてはいけないはずだ。高分子材料を常に負荷がかかっている部位に使用するときには細心の注意が必要だ。
カテゴリー : 高分子
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