2017.02/06 高分子材料(25)
カオス混合装置で混錬してPPSと6ナイロンを相溶させたコンパウンドは、吐出後急冷して非晶質状態で成形プロセスに供給する。急冷しなければ、PPSが結晶化して6ナイロン相がPPSの海の中に島として析出する。面白いのはPPSの比率が50%未満でも相溶する。ただし急冷しなければ今度は6ナイロン相の海にPPSが島として析出してくる。
フローリーハギンズ理論によればχが0の時に相溶という現象がおきるのだが、PPSと6ナイロンの組み合わせでは正の値なので相分離する。だから急冷しないときに相分離するのは科学の視点から当たり前の現象である。しかし急冷して6ナイロンが相溶し製造されたコンパウンドは非科学的産物である。急冷という非平衡プロセスのなせる業なのだが、このアイデアは40年以上前に登場したアモルファス金属の製造方法をヒントにしている。
形状記憶合金が登場したときには、話題になったのは使用方法である。最初に大量に実用化されたのはブラジャーの金具だ。洗濯をすると形を整える金具が変形したので問題になっていたのだが、形状記憶合金を使用すると変形しても装着時に体温で形状が元にもどるので、この問題を解決できた。
しかし、PPSと6ナイロンを相溶した非晶質体にはこのような特徴はない。形状を記憶していないがその状態はうまく記憶している。この非晶質コンパウンドを用いて押出成形を行い急冷して無端ベルトを製造すると相溶状態が保たれている。これには驚いた。
押出成形では単軸押出機を用いるので混練能力は低い。ゆえにコンパウンドが溶融状態になるまでに押出機内で相分離するのではないかと心配だった。しかし、この系はスピノーダル分解速度が遅いのかもしれない。ちなみに高分子の相分離はすべてスピノーダル分解で進むといわれている。これも高分子が紐であるからだ。
カテゴリー : 高分子
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