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2017.02/07 高分子材料(26)

高分子の相分離は濃度のゆらぎで進行するスピノーダル分解で起きる。大学で習ったときには相分離も結晶成長も意味がよくわからず苦労した。おそらく教えているほうもよくわかっていなかったのではないかと疑っている。しかし、金属やセラミックスを生涯の飯のタネにするつもりで勉強したところ、金属やセラミックスの相分離や結晶成長のほうがもっと複雑で難しい。

 

早い話が高分子が紐状であるので相分離はスピノーダル分解で進行するのが自然であり、結晶成長は核生成を仮定したアブラミ式になる。学生時代にこのように簡単に説明してもらえれば分かりやすかったのだが、難解な式の説明でそもそもなぜアブラミなのかスピノーダルなのか「?」がいっぱい出た。

 

高分子前駆体を用いたSiC生成の反応速度論が学位の半分を占めているが、その半分はお決まりの、「なぜ**の速度式を用いたのか」という説明である。無機の反応ではアブラミ以外に反応速度の取扱い方法は多数あり、アブラミ式で反応機構を取り扱うに至った論理を過去の速度論の解析結果をもとに論じることになる。

 

この部分はスタップ細胞の学位論文で問題となったコピペをしたくなるところだ。当時すでに反応速度論はある程度確立した学問になっていたので一部分はだれが書いても同じ論理の流れになるところが存在する。また同じ論理の流れで無く独自の流れにするならば、そこがまた研究テーマになるのである。

 

当方は総説を参考にまとめたのだが、コピペをすると膨大な量になり大変なので、図や表を駆使して文章を少なくする努力をした。この工夫は大変勉強になった。すなわち総説では文章で数十ページにわたり論理展開されていたところをフローチャートや表の一覧でまとめたのだ。その結果、無機材料の複雑な結晶成長を反応速度論で解析しなければいけない理由が見えてきた。

 

そもそもアブラミで仮定する核(注)の存在や濃度勾配などは、反応が進行した結果できているものを観察してその前段階を想像しているに過ぎない。単なる想像では妄想と区別ができないので速度式のあてはめを行って科学の香りを出しているのだ。

 

無機材料では結晶生成に様々な反応経路が存在するのでこのような速度論が進歩したが、高分子ではこの無機材料における速度論の成果をそのまま利用しているに過ぎない。だから高分子の結晶成長や相分離の話は、無機材料でそれをよく勉強してから学ぶとよく理解できる。そのうえで大学時代に高分子合成の専門家から聞いた講義はやはり少し怪しい内容だったと思っている。

 

(注)「電子顕微鏡でも観察できない」と総説には簡単に一言書かれていた。無機材料ではこの核が何かという研究も存在する。結晶成長の開始点として核は重要であるが、多くは見ることもできなければ確認することもできない空想の存在である。高分子では明確な核について授業以外では聞いたことがない。学術にはそれを専門にしている人には常識でも専門外には授業以外では一生出会わない言葉も存在する。この言葉の意味の難しさが学術を難解にしている。高分子のスピノーダル分解にしても二種類の色の10本以上の紐の束をよく混ぜてその状態から一種類の紐だけを集める作業をやってみると理解しやすい。例えばPPSと6ナイロンを相溶させて製造したフィルムは、室温でも10年かけてPPSの結晶化が進行し金属音がするようになる。Tg以下でもスピノーダル分解が進行する事例であるのとPPSの芳香環が室温で振動している証拠である。

カテゴリー : 高分子

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