2017.06/03 科学の間違いは正せるのか
化学系の大学生ならば知っていなければいけない理論にフローリー・ハギンズ理論というのがある。ノーベル賞を受賞したフローリーの理論である。当方の時代には高分子物理はまだ流行していなかったので、授業でほんの少し顔を出しただけだが、試験に出題され慌てた思い出がある。
式の形など憶えていなかったので知っていることを文章で書き連ねた答だったので△だったらしい。助手の方からあれは有名な理論だから試験に出るのは当たり前だ、とたしなめられた(有名な理論ならば授業で時間をかけて説明してほしかった。)。
このような悔しい経験があるとその後の人生に少なからず影響を与える。ゴム会社で出会った指導社員に、高分子のブレンドではフローリーハギンズのχで評価するよりも溶媒を使ってSP値をきちんと測定するように指導されたときには、この指導社員が神様に見えた。
そして「あれは単なる理論だから、実務では当てにならない」と言われたときには救われたような気持ちになった。指導社員は、実務では平衡状態を扱った理論というのは使い物にならない、という考え方で、この考え方はプロセシングを技術で捉える重要性を学ぶのに役だった。
このフローリーハギンズ理論に反するポリマーブレンドを最初にためしたのは、高純度SiCの前駆体であり、ポリエチルシリケートとフェノール樹脂が相容し透明となった材料が得られていた。その後ポリオレフィンとポリスチレンの相溶を成功させたり、カオス混合装置の開発によりPPSと6ナイロンを相溶させて中間転写ベルトを開発したりした。
χが正でも相容する現象はあるのだ。それでも科学の世界でこの理論を用いて高分子のブレンドを議論するのはお約束ごとである。フローリー・ハギンズ理論が間違った理論というつもりはないが、かなりどんぶり勘定の理論であると、写真会社で高分子技術を担当し感じた。
フローリー・ハギンズ理論を信奉していた外部コンパウンドメーカー(日本で有名な研究所から生まれたコンパウンドメーカーである)が供給する電子写真の部品用樹脂では製品化が難しかったので、ゴム会社に入社して以来温めてきたアイデアをもとに、中古機を寄せ集めて3ケ月でカオス混合プロセスのプラントを立ち上げた。PPSと6ナイロンが相溶して透明な樹脂(注)として押し出された瞬間に、学生時代のトラウマから解放された。
(注)フローリー・ハギンズ理論が正しければ、このような現象は起きない。ただしこの理論では、エントロピー項について明確に論じていないので、ここを修正して説明することができるかもしれない。しかし、この理論、何となく早く言ったもの勝ち的に見える。
カテゴリー : 一般
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