2013.02/05 迅速な研究開発を可能とするマネジメント<3>
高純度SiCのパイロットプラント建設と樹脂混練プラント建設、再生樹脂の開発の3例をもとに迅速な研究開発を可能とするのは管理者がどこまでリスクを深く理解し、そのリスクを回避する努力を行い常に成功しようとする決意にある、と説明してきました。この3例は研究開発のシーンでは異常な例なので参考にならない、と受け取られたかもしれませんが、通常順調に進められている研究開発でも高いリスクがあることを管理者は理解しているだろうか。
余裕のある開発計画で進めた場合でも、失敗のリスクを0にすることはできません。例えば高純度SiCのテーマの場合、S社とJVを開始するまで6年の歳月がかかりました。S社とのJV開始時には、短期間で完成させたパイロットプラントをそのまま使用しています。仮にパイロットプラントを3年かけて建設しても事業として成功するまでの期間は同じでした。
おそらくパイロットプラントの建設まで3年かけていた場合には、パイロットプラント建設の前にテーマが中断されていた可能性があります。技術として成功することが分かっていても事業として成功するかどうかは、先端技術の場合に企画段階でだれもわかりません。ゴム会社という半導体とは全く異なる業種で高純度SiCのテーマを推進するときの最大のリスクは研究開発中断という経営判断です。1g程度のサンプルで2億4千万円の先行投資を受け、1年弱の短期間でパイロットプラント建設を行った理由は、セラミックスフィーバーが終われば、テーマ中断の経営判断が出ることが予想されたからです。高純度SiCの事業は日本化学会科学技術賞を受賞し、現在もゴム会社で事業が30年近く継続されています。
事業の成功因子と技術の成功因子は異なります。前者のリスクと後者のリスクでは、後者のリスクの方が確実に予測可能です。100%可能な場合もあります。最初にあげました3例は技術として100%成功する自信がありましたので短期間でやり抜く決心ができたのです。しかし前者のリスクを100%取り除くことはできません。本来研究開発というものは技術のリスクのみ管理するステージと事業のリスクを下げるステージの管理とわけて推進できればよいが、どこの会社も研究開発管理者に対し、初期段階から両者を要求しています。
そのため初期段階に華々しい事業計画を示し、研究開発の途中でも技術の実力よりも事業可能性ばかり説明し、経営陣をだますような管理者が出てくるのです。およそ、その会社の事業として大きく育たない可能性が見えていても10年続けた馬鹿な研究開発事例も見たことがありますが、技術と事業の関係性よりも事業の華々しさだけを強調していました。経営がこのような管理職に騙されないためには、実務担当者に直接技術の市場における位置づけを聞くとよいです。実務担当者に10年続ける意思があるかどうか問えばよいのです。実務担当者にその覚悟が無ければトップの技術は育ちません。トップの技術が育たなければ後発で市場参入する場合に勝てるわけがありません。
高純度SiCのテーマは実務担当者として推進しましたので、トップレベルの技術の成功のみ考えていました。しかし、樹脂の混練プラントや再生PETの場合には管理者として担当していました。実は、管理者として担当したこれらのテーマは事業としての成功は100%、技術としての成功も100%分かっていたテーマです。むしろ、必ず事業で必要になる、とわかるまでテーマを推進しなかった、という言い方の方が正しい。研究開発を100%成功させるには、事業としての成功が読めるところで推進すればよいのです。
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