2017.06/16 昨晩の講演会
昨晩の講演会は、途中で少し涙が出そうだった。悲しい内容というわけではなく、当方が10年以上前単身赴任する時に元部下から聞いていた話を講演の途中で思い出したからだ。すなわち、当方がリーダーだったころは感材のフィルム技術開発が主要テーマのグループで、彼はラテックス合成技術開発が担当だった。
バブルがはじける直前、写真会社で新たに高分子材料開発センターを設立したので次期センター長候補にと当時の人事の方から口説かれ転職した。しかしバブルがはじけそこへデジタル化の波をかぶり、いつまでフィルム開発をやっているのかという理由で当方は左遷され、その後豊川へ単身赴任した。
当方はゴム会社で転職するに至ったトラウマがあり、現状事業に寄り添った研究開発戦略で、新規分野ではシリカやアルミナのコロイドを用いたインクジェット受像層の開発や採用はされなかったが水系塗布による熱源像感材を企画するのが精いっぱいだった。しかし当方の後を受けた元部下が、某先生のご指導で企画したテーマ内容と昨晩の講演は似ていた。
古い話なので先生のお名前など忘れていたが、話の内容は元部下が熱く語っていたので少し覚えていた。元部下は開発の初期に病で倒れ、その後その企画はどのようになったのか東京から遠く離れた豊川まで伝わっていなかったので忘れていた。たまたま写真会社の元同僚が同じ講演を聞きに来ていたので尋ねてみたら、どうなったか知らないという。
今でも継続しておれば将来が楽しみな事業になっていたかもしれない。このような、研究開発に長時間かかるテーマを企業で推進するには、経営の支援が不可欠である。ゴム会社で高純度SiCの研究を開始し住友金属工業とのJVとしてスタートさせるまで6年かかっているが、頑張ることができたのは経営の支援があったからである。
最近読んだ「化学と工業」には、故矢島先生のSiC繊維の話が出ていた。宇部興産で30年以上研究開発が続けられた事業だが、初期の研究開発に携わった人の中には定年を迎えた人もいるという。一つの研究テーマで事業を立ち上げ、その後研究開発が継続され、定年までそれを担当できるのはサラリーマン技術者として幸せなことである。
しかしそのような風土のない会社ではこれは夢の話となる。本日の講演でもそうだが、山本尚先生がお話しされていたような、アカデミアがリーダーシップをとり、応用研究で企業と産学連携を進めてイノベーションを起こしてゆくのが日本に適したスタイルだと思う。
高純度SiCの事業では、予期せぬ出来事でゴム会社からアカデミアへテーマを持ち込んだような形態になったが、住友金属工業とのJV立ち上げまで産学連携体制で事業は進められた。このように、研究開発に時間がかかるようなテーマでは、企業が産学連携体制で息長く事業として育てながら進めてゆくのが現実的である。
ただし、その前に長期間研究開発を進められるような壮大な研究シナリオが必要になってくる。それを誰が描くのか。
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