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2017.07/11 難しい問題

カオス混合によりPPSと6ナイロンを相溶させて中間転写ベルトを実用化することができた。このベルトの凄いところは、靭性の指標であるMIT値が2万を超えたことである。二軸混練機だけで混錬した材料では3000なので大幅な改善である。

 

脆いPPSが6ナイロンを相溶したことで、しなやかな材料に変わったのだ。さらに、その高次構造はカーボンの凝集体が均一に分散した構造になっており、これがベルトの面内の抵抗を均一にできた理由である。

 

6ナイロンをPPSに相溶しやすいMXD6というナイロンに変更して同様のベルトを製造したところ、カーボンの凝集体の大きさは小さくなり、その凝集体の個数が増加した。高次構造が少し変化したのだ。

 

すなわちマトリックスのΧによりカーボンの凝集体の大きさが変化している可能性がある。ベルトの開発が完了してから、ナイロンの種類を増やして同様のデータを取り、一か月間この周辺の研究を行ってみたところ、スピノーダル分解速度により凝集体の大きさが変化していることが分かってきた。

 

またマトリックスのΧにより凝集体の数が影響を受け、一個の凝集体に含まれるカーボンの個数が少なくなるという現象も凝集体の大きさに影響を与える可能性があるが、その寄与は小さいことも分かった。これは面白い現象である。高次構造を観察したところ6ナイロンのドメインは見つからないが、わずかなスピノーダル分解が起きており、カーボンの凝集構造を制御している。

 

このあたりの研究は深く進めると面白いがその結果得られる科学の真理が新しい技術を考えるときに重要かどうか問われると難しい問題である。現象をモルフォロジーで捉え公知の情報で推測された内容だけで技術開発のためには十分である。真理として確定していない情報でも技術開発で用いることができ特許出願が可能である。とりあえず特許を出願し退職した。

 

新しい科学の真理を前にしてそれを確定する仕事を進めるかどうかは経営資源との相談となる。最低でも人材育成効果を期待できるが、人材側から拒否される問題も存在する。企業で自然科学の研究を進めにくい時代になってきた。

 

カテゴリー : 高分子

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