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2017.06/13 開発を完了してから研究を行う

企業の技術開発において、科学はあくまでも道具である。この認識は重要だと思う。ゴム会社においても、写真会社においてもそれぞれで成果を出すにあたり、大半の成果は非科学的なプロセスでまずモノを創り出し、それを周囲に説明する時には、科学的プロセスで実施したかのようなプレゼンテーションを行ってきた。

 

これは欺瞞的行為ではない。いわゆる科学の時代の忖度による技術開発である。「科学こそ技術開発を成功に導く」という風土において、非科学的成果が如何に優れていても受け入れてもらえないことは、ゴム会社の研究所で経験してきた。

 

しかし、退職してから中国のローカル企業で独自の開発プロセスを用いた指導を行い成果が出る状況を見るにつけ、企業で研究開発を進めるときに科学的プロセスに拘る必要はないと確信した。たとえ、科学で解明されていないことが存在しても、それを「分かっていないこと」として放置して「モノ」を創り出すことができるのだ。

 

すなわち、技術開発を行うときに科学的プロセスに拘らず、非科学的プロセスも取り入れて縦横無尽に開発を推進した方が開発スピードは明らかに速い。

 

タグチメソッドにしても科学で理解しようとすると難解になるが、非科学的プロセスの中で単なるメソッドとして扱うと理解しやすい。そして開発に成功してから、その成果について、科学的プロセスで研究を行い普遍の真理を明らかにして、それを非科学的成果とともに伝承する。例えば、この手順で行った高純度SiCの技術は、ゴム会社で30年以上事業として継続されている。

 

ところでSiCの科学的知識のレベルは、1980年代においてSiC化の反応機構について諸説ある状態だった。それは、シリカとカーボンの比率やプロセシングで反応機構が変わることが原因と推定された。すなわち、シリカとカーボンが理想的に反応し、科学量論比に適合して進行するSiCの生成反応を科学的に実現できていないだけでなく、その速度論的解析も成功していなかった。分かりやすく言えばSiC生成反応に関する当時の科学的議論は、目の不自由な人たちが像という生き物を語るにあたり、触ることができる像がいなくても像というものをあたかも触っているように語っているひどい状態だった。

 

フェノール樹脂とポリエチルシリケートを相溶させた前駆体では、シリカとカーボンが分子レベルで均一になっていると推定された。そのため、もし前駆体が不均一になったなら、諸説ある過去の反応機構のいずれかに当てはまるのではないかと予想された。このような背景から、目標どおり合成できた前駆体のSiC化の反応機構を確定できれば、その成果を使って前駆体の品質管理に利用できる、と期待した。

 

ただ、当時はSiCの反応をモニター可能な超高温まで安定に動作する熱天秤が存在しなかった。2000万円ほどかけて超高温度熱天秤を真空理工にお願いし共同開発した。2000℃まで1分以内に昇温可能なその熱天秤で速度論的解析を行ったところ、予想通りの結果が得られた。すなわち、目標どおりうまくできた前駆体とそうでない前駆体を見分けられる技術が出来上がった。そしてこの成果は、住友金属工業とのJVにおいて、前駆体の品質管理技術として活用された。さらにこの科学的成果で学位を取得した。

 

<科学は人類にとって重要な哲学の「一つ」である>

科学は自然を理解するときの人類共通の哲学である。科学的プロセスで得られた真理は人類に「真理」として容易に共有化される。一方で科学の真理として確定した現象の理解を否定することは難しい。ゆえに理学に対して工学では非科学も扱うべきである。複雑系の科学という言葉があるが、技術の中には複雑な状態をブラックボックスとして実用化している事例が多い。科学が一つの哲学であるならば非科学もアカデミアで扱っても良いと思う。むしろアカデミアでは積極的に非科学を扱い、工学の中におけるそのあるべき姿を追求すべきではないか。科学だけでは、現象から新たな機能を取り出すことができない時代である。

 

カテゴリー : 一般

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