2017.06/22 技術開発のプロセス
科学的な問題解決プロセスは、小学校から学んできた方法である。20世紀の技術開発ではこのプロセスが推奨されたが、科学誕生以前の人類は非科学的プロセスで技術の改良に努めていたはずだ。だから、科学的方法以外の技術開発プロセスが現代でも採用されてもおかしくない。
ゴム会社の新入社員発表会において故S専務から、タイヤという商品は科学的なプロセスだけで開発できない、と教えられた体験をこの欄で書いている。この後、科学一色の風土の研究所に配属されたが、運よく優秀な技術者に科学と非科学の両者の方法を3ケ月指導された。
そのおかげで、社会に出て一年もたたないうちに学生気分は抜け、科学というものに疑問を持ち始めた。そして、哲学者ではない当方は、担当した仕事の中で試行錯誤を行いながら技術開発の方法について思索を深めていった。
個性的な指導社員との刺激的な3ケ月が過ぎ、ポリウレタン発泡体の難燃化技術開発を担当することになった。このテーマでは、ホスファゼン変性軟質ポリウレタンフォームやホウ酸エステル変性ポリウレタンフォームの成果を学会発表や論文発表をしている。
これは主任研究員が科学を大好きな人だったので外部発表の機会に恵まれたわけだが、この人は科学を中心にしたマネジメントを熱心に行っていたにもかかわらず、課員から科学も技術もよくわかっていない、とうわさされていた。
うわさの原因は、「仮説を立てて仕事をせよ」とか「もう少し科学的な考察をしなさい」とかが日常の口癖だったが、この言葉を聞いた某担当者がある日「例えばどのような仮説になるのでしょうか」と質問をしたところ、「それを考えるのが君の仕事だ」(注)という答えが返ってきた。
それで、「ご本人は科学を理解していないのでは」、とうわさされるようになった。また、日常の会話でも上司の仕事に対する理解不足が伺われるシーンがよくあり、現場は科学的問題解決プロセスを目指していた上司を無視して仕事が行われている状態だった。
このような状態だったので、アカデミア同様の科学的プロセスに忠実にテーマを推進している人や、QC手法による問題解決に忠実な人、独自の思想に基づくプロセスで器用にテーマをこなしている人など様々な業務プロセスを観察できた。
ところが業務プロセスは様々だったが、月報をまとめるときには論理的な記述になるので上司はそれなりに満足していた。アカデミア色の強い研究所の中で少し異色なグループに属し、科学的プロセスでは問題解決が難しくなる高分子の難燃化技術開発を担当できたのは、改めて科学的プロセスについて考えるために役だった。
(注)指導者のこのような回答は好ましくない。時間をかけてコーチングを行うか、時間が無いのであれば、部下の質問に対して例示する必要がある。会社は学校ではない、と言っていた役員もいたが、OJTで部下を丁寧に指導するのは上司の役目である。知識労働社会では、学校で学んだ知識だけでは不足しているので個人の自己研鑽は必要だ。しかし、今の学校教育では社会で学ぶ方法を教えていない。どのように知識を獲得するのか、という問題は、どのように情報を獲得するのか、と等価ではない。難易度も異なれば個人差も存在する。リーダーが、経験に基づきコーチングによりきめ細かく知識の獲得方法を指導すべき時代だと思う。最近は私大でこのあたりに力を入れる大学も現れたと聞いているが、アカデミアも取り組むべき問題かもしれない。退職して改めて思うのは、学校における勉強法と社会における知識獲得方法は大きく異なる。はっきり言えるのは、学校における勉強法では、技術開発のスピードに知識獲得の作業が遅れると言うことだ。文献を読むにしても、数分で専門外の文献でも「判断」が出せなくてはいけない。これは学校で教えてくれない方法である。
カテゴリー : 一般
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