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2017.10/30 (フィラーを用いた高分子の機能化)科学の世界における誤解(5)

酸化スズゾルは、高純度の酸化スズが水に分散しているコロイド溶液である。高純度の酸化スズ結晶については1980年代のセラミックスフィーバーの時に無機材質研究所で絶縁体であるとの結論が出された。

 

だから写真会社の担当者がそれを評価して絶縁体であると1991年に結論したのは、形式知から正しいように見える。

 

ところが特公昭35-6616という特許には酸化スズゾルに含まれている非晶質酸化スズは導電性物質であると書かれている。小西六工業の特許だが、担当者はペテントかもしれないといった。

 

たしかにその特許のあと当方が1992年に特許を書くまでこの技術に関して出願がなされていない。そのかわりライバル会社からこの特許公開から1年後に結晶性酸化スズや非晶性五酸化バナジウムを用いた帯電防止層の特許が出ている。

 

特許の中にはインチキ特許もあるので注意が必要だが、子供の頃父親が愛用していたサクラフィルムで有名な小西六工業の出願している特許である。まず信用して追試をするだけの価値があると思った。

 

しかし担当者は無駄だと言った。理由は昔の特許に書かれている酸化スズゾルと実験室の隅に放置されていた、市販の酸化スズゾルは同じものだったからだ。

 

ところが市販されていた酸化スズゾルのカタログには結晶性酸化スズゾルと書かれていた。また、その製品に関係している特許も出願されており、小西六工業の特許があるにもかかわらず成立していた。

 

これは市販の酸化スズゾルが特許製品であることを主張するためにインチキ特許を出願していた可能性が高い。実際に酸化スズゾルを販売していた会社の担当者に話を聞いたら、インチキ特許であるとまでは白状しなかったが、苦しい言い訳をしていた。

 

しかし導電性の高純度結晶性酸化スズゾルでは、高純度酸化スズ結晶が絶縁体だと発表されているので誰も買わないだろう、と言ったら、実は全然売れていません、と回答してきた。

 

早い話が、当時酸化スズゾルを販売していた会社の特許がインチキ(注)でインチキ特許で事業をやろうとした事情は不明だが、形式知と矛盾している説明が書かれた商品カタログでは売れないのは当たり前だ。

 

なんやかやと酸化スズゾルメーカーの担当者とやり取りしていたら、結晶性という言葉がカタログから消えた。

 

(注)このメーカーのために少し補足すると、この会社の特許に書かれた実施例を実施しても非晶質酸化スズゾルしか合成できない。しかし、導電性は悪い。ただし合成条件を変えると特公昭35-6616と同程度の酸化スズゾルになる。この酸化スズゾルについては、合成条件を変えることで100000から1000Ωcmまで100倍程度変化する。またアンチモンを添加した酸化スズゾルも販売されており、こちらは導電性が10倍程度悪くなる。これは面白い発見だった。なぜなら結晶性酸化スズでは、アンチモンをドープしない限り導電性は出現しない、すなわち高純度結晶性酸化スズとアンチモンドープの結晶性酸化スズでは、絶縁体と導体の差があるのに、コロイド溶液では導電体と半導体の差程度であり、高純度非晶質酸化スズのほうが若干導電性が高い。高度な材料評価技術を持っていないとこの材料の真の姿を見ることができない。これはアカデミアでも同様で、当方は電気物性の測定については、その評価サンプルを当方および当方の部下が完璧な状態で作成し、二か所の大学に測定依頼している。そして、それぞれの大学で一致した結果が得られているが、サンプル作成を当方らが行った背景はそれぞれの先生がサンプル状態で測定結果が変わるとの、「正しい」アドバイスをしてくださったからだ。この結果は学会発表を行っていないが、非晶質ゾルの電気特性評価は難しい。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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