2017.11/01 (フィラーを用いた高分子の機能化)科学の世界における誤解(7)
ひび割れの無い酸化スズゾルの単膜をガラス基板に形成する技術をディップ法で開発した。暗電流を評価したところ、その導電性は1000Ωcmで、さらに結晶性酸化スズでは観察されない導電性の準位が見つかった。
どうも単膜に水が含まれている可能性があり、熱分析結果から300℃前後でそれは抜けて、わずかに酸化スズ結晶が現れる。このような挙動の水は結晶の場合では構造水となるが、非晶質の場合では何と呼べばよいのか。
300℃前後で揮発する水分なので吸着水ではない。構造水のような水を含む非晶質酸化スズだが、とにかく結晶質の高純度酸化スズが絶縁体と言われているのに、非晶質の高純度酸化スズゾルが導電性フィラーであることが分かった。
酸化スズゾルは、そのまま単膜にして導電性を評価しようとするとクラックが入るため、絶縁体として誤解される可能性がある。またラテックスとともに薄膜を形成したときにはパーコレーション転移が生じにくいのでやはり絶縁体として誤解される。
写真会社の担当者はバインダーとしてゼラチンを用いていたので、さらにパーコレーション転移が起きにくくなっていたはずだ。もし酸化スズゾルという導電性フィラーの機能をフィルムの帯電防止層として活用するならば、パーコレーション転移が起きやすいバインダーを開発しなければならない。
フィラーを用いた高分子の機能化の考え方もこの事例と同じで、すでに開発された高機能フィラーについてその性能を活かしきるような高分子マトリックスの開発が重要である。
酸化スズゾルについては、信頼できる形式知が存在しなかったので、研究を行ったが、今やこのような怪しいフィラーを用いる研究開発は時代遅れだ。形式知で明らかにされたフィラーを用いて、マトリックスとなる高分子の開発を行うのが今どきの複合材料開発の方法である。
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