2017.11/29 材料メーカーによるデータ改ざんの問題
東レの子会社がタイヤコードのデータ改ざんを行った、というニュースが流れている。神戸製鋼や三菱マテリアルに続いてまたもや材料メーカーの品質データに関する不祥事で、さっそくお決まりの謝罪が行われた。
ところが、材料メーカーの品質データ改ざんはやってはいけないことであり、それをやってしまったから謝罪する、という対応だけでは解決できない問題を含んでいる。そろそろ材料メーカーと部品メーカーあるいは製品メーカーとの間で本音の品質管理を行わなければいけない時代である。
特効薬は、材料の品質データに問題があったにもかかわらず、特採を行って部品や製品に問題が発生しなかったならば、お互いに取り決めた材料の品質管理項目から外し、材料メーカーの内部データとして扱うことを部品メーカーが了解することだ。
そして、その内部データを必要に応じて部品あるいは製品メーカーに材料メーカーが開示するルールにすれば、品質データ改ざんの必要性は無くなる。すなわちQMSに則って品質管理の運用方法を改めるのだ。
このように書くと部品メーカーから反論が出てくるかもしれない。しかし、高分子や合金、セラミックスなどの材料は、材料段階で完璧な部品品質あるいは製品品質の保証を行おうとすると、その技術開発に膨大な時間と費用がかかる。その結果材料コストは上昇する。
また、部品メーカーや製品メーカーにとって、材料メーカーにそれが可能となるように協力すると、内部の技術を開示する必要が出て、組み立てノウハウが漏洩するリスクを抱えることになる。
このリスクの大きさは、経済産業省の音頭取りで材料メーカーが部材メーカーへ変貌したことから、ますます大きくなっている。材料メーカーが部品メーカー、あるいは製品メーカーへ変貌する時代である。
かつては、このようなリスクは小さかったので、部品メーカーの立場では、材料品質のばらつきは部品品質のばらつきにつながるのでどうしても材料の品質管理項目に厳しくしてきた。しかし、材料のどの品質項目が部品品質や製品品質にどの程度の寄与があり、どのような材料品質の管理を行えばよいのか、部品メーカーには完璧な技術が無いために、それを追求した結果、材料メーカーに過剰品質の生産を強いてきたのである。
このあたりを両者が話し合って、品質管理の運用方法を実態に合わせて改善していかない限り、品質データの改ざん問題は今後も起こる可能性がある。一部マスコミが材料メーカーのおごりと言っていたが、必ずしも正しくない。当方が製品メーカーの立場で接していた、東レという会社は、誠実で真摯な材料メーカーである。
そのような会社で起きた今回の問題を是非製品メーカーや部品メーカーは、深刻に考えていただきたい。さらに、東レは、川上から川下まで事業を展開可能な技術力を持っている会社でもある。データ改竄を悪いことだとわかっていても改竄を「しなければいけない、と考えてしまう」状況を作り出している品質管理は「おかしい」のである。
以前この欄で紹介したが、当方が複写機の部品を製造するために立ち上げたコンパウンド工場では製品の品質まで保証できる品質管理項目を採用した厳格な品質管理体制でスタートしている。
しかし、生産の安定性が確認されてから、当方の退職までに、たとえ担当を離れても、それらの品質管理項目を順番に見直しすべて撤廃している。理由は品質管理にコストがかかっていたからだ。また、撤廃しても各部署の了解が得られたのは、当方が責任を持って業務を進めたからである。
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