2018.02/13 電気粘性流体の増粘問題解決法のひらめき
高純度SiCの事業化を一人で推進していた時に、電気粘性流体の増粘問題が研究所で大きな問題として扱われていた。これは、その後当方が界面活性剤で解決した問題だったが、当時優秀な人材が一年かけて界面活性剤では問題解決できない、という結論を科学的に出していたのでややこしい。
ただ、この結論は電気粘性流体を実用化するときに避けられない問題であり、その解決策と問題そのものは極めて重要な形式知と位置づけられ、社内でも機密扱いにされ、本部内の報告会でも扱われなかった。
そしてこの電気粘性流体の増粘問題を解決するため、界面活性剤では問題解決できないという結論を出したメンバーにより、電気粘性流体を増粘させないゴム材料の開発という新たな企画がなされた。
その企画のお手伝い役として当方に一部仕事が回ってきた。住友金属工業とのJVを進めようとしていた頃だったので、何とか断りたかったが、本部長命令だという。高純度SiCの事業化は、本部長が交代した時に、どうでもよいテーマになっていた。
ただ、この時どうでもよいテーマになってはいたが、一年後には、当方の転職の決断で大きなテーマになり、現在まで事業がつづいている。電気粘性流体の増粘問題が、転職問題に変わったのは、このお手伝いがきっかけだった。
お手伝いを言ってきた人に、配合剤が電気粘性流体のオイルに抽出されないゴム=配合剤の添加されていないゴムという意味か尋ねたところ、それに近いという。すでにオイルに抽出される添加剤は解明されているので、それらを用いなくてもよいゴム(加硫剤も入っていないようなゴム)を開発するのだ、と真顔で、少し考えれば間抜けな説明をそのリーダーはしてくれた。
どこが間抜けかはここで詳しく書かないが、反射的に、増粘した電気粘性流体を欲しい、とお願いした。そんなものは実験室にたくさんあるから自由に使ってよい、と言われたので、耐久試験時間が一番長くヘドロの様なもっともひどい状態の電気粘性流体を頂いた。
そしてそれらを300個程度サンプル瓶にわけて、それぞれのサンプル瓶に手元にあった界面活性剤を一滴ずつ添加し、サンプル瓶をよく振ってから一晩放置した。翌朝配合剤の添加されていないゴム開発というテーマを担当しなくてもよくなる、素晴らしい結果が得られていた。
すなわち、電気粘性流体の増粘問題を解決するアイデアは、お手伝いを頼まれた仕事がゴムの常識から考えてあまりにもばかげていたので、ショックであきれた瞬間にひらめいたアイデアである。
常識にとらわれないアイデアとは、実現可能性が明らかに存在しないときに、それを聞いた人をびっくりさせる。しかし、それが素晴らしい内容の時には感動を呼びおこすが、ほとんど苦労してよく考えていないと思われるばかげた内容の時には、相手を忖度した行動を引き起こす。サラリーマンとして、150年以上のゴムの歴史から考えるとばかげた企画だと即座に断れなかった。
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