2018.02/22 カオス混合装置の発明(2)
カオス混合とは、パイ生地や餅つきで発生している機能との説明を受けた。すなわち急速に引っ張った(伸長流動)後折り曲げる(剪断流動)ような混練方法だ、と指導社員から教えられた。さらにロール混練ではそれに近い現象が起きているのではないか、とご自身の想像をまじえ混練技術に関する経験知と暗黙知を伝承してくださった。この指導には大いに感謝している。
当時すでに高性能な二軸混練機が世の中で普及していたのに、加硫ゴムでは、バンバリーとロール混練を用いるバッチ方式が使用されていた。指導社員は、高性能な加硫ゴムを絶対に二軸混練機では製造できない、と明確にその理由を経験知と暗黙知で説明された。
2005年末に二軸混練機に取り付けるカオス混合機のアイデアに成功したのは、この時の暗黙知がうまく伝承されていたからである。
技術の現場において暗黙知を伝承する方法は、経営の使命が企業の持続的成長、すなわち今の世代を次の世代に受け継ぎ発展させる行為にあるとすると、大切な問題である。しかしながらその実現は容易ではない。ノウハウが要求されるが、ゴム会社には伝統的にその風土が存在した。
設備の進歩以外に、ポリウレタンRIMの普及が始まり、高性能なTPE開発が活発になってきた時代でもある。当時の愛車セリカのバンパーにはPPではなく高価なポリウレタンRIMが使用されていた。加硫ゴムの技術が将来も残っていくのか、という議論が活発に行われ、樹脂とゴムのハイブリッドであるTPEが新素材としてもてはやされていた。
たとえ射出成型で作られるゴムが普及し始めたとしても、バッチ方式で混錬され、成形もたい焼き機のようなバッチ装置を用いた方式がゴムの高性能化には必要なプロセスだ、と指導社員はいわれた。しかし、高性能なカオス混合装置が発明されたなら、それで加硫ゴムの混練ができるかもしれない、と付け加えられた。
ゴムの混練プロセスというものが十分に解明されていなかったので、それをカオスと例えた人も研究所にいたが、カオス混合というのは、そのカオスとは異なり特殊な混練方式、というのが指導社員の説明だった。それを連続プロセスで実現できるのは君しかいない、などと時々からかわれたりした。これはカオス混合に興味を持ち考え続けるには十分な動機付けだった。
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