2018.03/10 カオス混合装置の発明(6)
ロール混練を行っていると、あたかも高分子の混練の進行が目に見えるような錯覚に陥る。オープンロールはその名の通り、丸裸の状態でゴムを混練しているのだが、微妙なしわの入り方や表面の光沢感でそのような錯覚を起こすのだ。
この錯覚が生々しく脳裏に残っている状態で、リアクティブブレンドによるポリウレタン発泡体の開発を担当できたのは幸運だった。すなわち高分子を混ぜるという高分子のプロセシング技術で重要な経験知を整理することができた。
経験知は、乱雑に身に着けていても「思いつき」という形で役立つかもしれないが、形式知と経験知とを関係づけ、さらに形式知で明らかにされていないところをモザイクの消去を行うような感覚で経験知で埋める作業を行うと、見えていないところが見えてくるから不思議だ。
とかく見えないところをリベールする作業は怪しい作業に見られがちだが、このような自然現象のリベールは、十分な好奇心を満たしても他人に後ろ指をさされることはない。ただ、その結果を形式知のように話してしまうと軽蔑される。
高純度SiCの前駆体合成をリアクティブブレンドで行うアイデアは、単なる思いつきではなく、フローリーハギンズ理論で相溶が否定される材料を安定に相溶させる手段がそれしかないこと、と頭の中に整理されていた結果生まれているが、最初に研究所の先輩社員にアイデアを話したらバカにされた。
高純度SiCの前駆体合成技術は、高純度SiCの新生産プロセスを開発できただけでなく、カオス混合でどのような結果が得られるのかを検証した成果でもある。この成功で高分子を相溶させるには、フローリーハギンズの理論よりも、高分子を「混ぜて」(ΔSの変化)「安定化」(ΔGの減少)させるイメージが重要であることに気がついた。
このイメージを実践し成功したのが、光学用ポリオレフィン樹脂にポリスチレンを相溶させた実験である。この実験では、錠と鍵の関係(ΔSの偶然による制御とΔGの減少)にあるようなイメージを持ってバンバリーで高剪断をかけながら混錬したところ、アペルと新たに合成したPSとが相溶し、透明になった。
これは高剪断と分子の一次構造の組み合わせ効果で相溶に至った事例である。この成功で高分子を相溶させる方法がリアクティブブレンドだけでなくプロセスを工夫すれば可能であることが見えてきた。そしてカオス混合における伸長流動は高分子の引き伸ばしにより相溶を促進するかもしれない、という妄想を持つに至った。
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