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2018.04/17 危ない仕事のコツ(2)

課長は、現在のコンパウンドメーカーとともに開発をやりとげることが方針として決まっている、という。ただし、どこか他のコンパウンドメーカーが現在のコンパウンドメーカーよりも優れたコンパウンドを提案してきて、それで仕事がうまくいったのなら、それは社内的には許されるだろう。ただし、現在共同開発しているコンパウンドメーカーは、共同開発を理由にそれを問題にするかもしれない、と語った。

 

まじめな男である。半年後に成功を保証できるコンパウンドを何とか当方に調達してほしい、しかし、自分にはその知恵が無い、と正直に言っているようなものだ。当方はこの課長の当たり前のまじめな説明を真摯に聞いた。

 

課長の説明を聞いた後、もし子会社が優れたコンパウンドを供給してきたら外部のコンパウンドメーカーは文句を言うだろうか、と質問した。

 

彼らは、この写真会社は高分子の素人ばかりでコンパウンド技術が分かっていない、自分たちの方法が最良だと会議で言っている。議事録にもきちんとそれが残っている。

 

さらに、当方の技術提案を彼らは排除しているのだから、その排除された技術で製造された子会社のコンパウンドを採用しても問題は起きないだろう、と当方の考えを説明した。

 

課長は、現在の状態で開発人員が不足しているのに、コンパウンド開発をどのように行うのか、と質問してきた。開発をやらなければよいだろう、子会社で最初から生産立ち上げを行ったら開発人員はいらない、生産要員を手配するだけだ、と回答した。生産技術のスタッフならば、今からでも1-2名程度の増員は予算上可能だ。

 

課長は納得したが、いきなり生産ができるのか、少なくとも子会社の生産したコンパウンドを事前に評価した結果が必要になる、とISO9001のDR(デザインレビュー)手順をまじめに語りだした。どこまでも真面目な課長である。

 

多少は上司の気持ちも忖度してほしい、と言いたかったが、当方が一人でDRを各ステップすべて行う、そのためのデータ収集から資料作成までたった一人で行うからそれでよいか、と言ったら驚いた顔をして、こんどはグループのマネジメントは誰がやるのか、となった。

 

課長は当方が一人で業務をやることを納得した、と判断して、君にすべて権限を委譲すると答えたら、課長は驚いたが、納得したのかまじめな顔をして、具体的な計画書を作成してください、と早速上司に指示を出してきた。

 

マネジメント上では、当方の提案で役割が逆になったので課長が指示を出したとしても問題は無い。給与だけは高いままで役割は自ら下になって業務を推進し、結局半年後に中間転写ベルトを新製品に搭載することに成功するのだが、この成果は当方の評価につながらなかった。

 

評価につながらないことが分かっていても仕事を成功に導くためにはこの方法しかなかった。危ない仕事をうまくやれるかどうかは、成功させるために思い切った意思決定を誠実真摯にできるかどうかだ。

 

そして意思決定をしたのなら全責任を負う覚悟をしなければいけない。全責任を負うと言っても組織で行う仕事なので、組織の全責任を負えるレベルまで合意が得られるよう調整し、誰もが納得できるそれらの記録をコンプライアンスを遵守しながら残してゆく作業が重要になる。もちろん後で修正しなければいけなくなる内容はダメだ。

 

これが一番大切だが大変だ。大変な作業で、誠実真摯に仕事を進めなかったのが、いわゆる「森掛問題」である。国民に対して責任を負う覚悟をした役人がいなかったために問題となっている。官僚は公僕であることを忘れてはいけない。危ない仕事でも誠実真摯に意思決定をし、進めれば問題は起きない。

 

(注)この仕事では、土日も返上し、時には徹夜もしてDR資料作成を行っている。当方の意思決定に対し、予算の決済をしてくださったセンター長は、おそらく綱渡りの気分だったに違いない。当方に賭けてくれたその心意気に報いるために必ず仕事を成功させたい思いだった。ゴム会社で高純度SiCの事業立ち上げをしていた頃の気持ちを思い出した。ただし、組織風土の違いが仕事の進捗を加速した。仕事は大変だったが、気持ちよくできた。ただしデータが少ないために満足な体裁が整うまで何度もDRの資料が却下されたのは苦い思い出である。が、財務省の書類問題を思うときに、問題となるような資料を残さなくてよかったと安堵している。

カテゴリー : 一般

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