2018.03/21 材料科学についてどこで学ぶか
学生時代に高分子科学の授業といえば高分子の合成が中心で、高分子物理については大学院2年間でその香りに触れることすらなかった。ただ、フローリー・ハギンズ理論が教科書に一言書かれていたという理由で、それが試験問題として出た。
これは、生涯忘れることのない高分子物理の苦い味だった。授業中に寝ていたのか、あるいは友人との交流に時間を取られ授業に出られなかったのか記憶にないが、授業では聞くことがなかったその言葉と試験用紙でいきなり遭遇し慌てた。
就職したゴム会社の研究所はアカデミアのような雰囲気で、知識の多さが第一という風土だった。ある日フローリー・ハギンズ理論について知っているか、と尋ねてきた先輩社員がいた。先輩社員は、当然当方のトラウマなど知らないので、完璧な説明にびっくりしていた。
1970年代の高分子科学の状況は社会人1年目でフローリー・ハギンズ理論を知っていることができる技術者の証の様な時代だった。今書店で大学の高分子科学に関する教科書になりそうな参考書を見れば、たいていは1ページ以上この理論の説明がある。
昔のように、一言教科書に触れていた程度の理論ではないのだ。高分子材料を扱う技術者には必須の知識の一つになっている。この40年間の高分子材料科学の進歩は著しい。
一方無機材料科学も1980年代のセラミックスフィーバーで著しい進歩をしたのだが、教科書の状況は高分子科学ほどの大きな変化はない。無機化学は、コットン・ウィルキンソンの著書である教科書に代表される錯体化学が中心のようである。
ただ、無機化学の教科書は、結晶関係やセラミックスなどが独立して存在し、おそらく大学の授業では基礎科学の一つとして授業が行われ、昔あったガラス工学などの授業は無くなったのだろう。
書店で教科書の類を眺めていると、実務で要求される材料科学という有機材料から無機材料まで俯瞰した優れた書籍が無い。一方で40年前優れた材料科学の教科書と言われた複合材料入門がいまだに書店に並んでいたりする。
結局材料技術については、セミナー会社が開催するセミナーでそれぞれの分野の技術について学ぶ以外に方法が無いようだ。セミナーの講師として呼ばれるときにはこのあたりの事情も考えて講義をしなければいけないと思っている。
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