2018.06/12 高分子材料の信頼性(2)
学生時代の高分子の授業は重合反応が中心だった。フローリーの教科書を用いた高分子物性論も2単位ほどあったが、今の時代から見ると、およそ高分子物性論と呼ぶには貧弱な内容だった。
大学の授業でどのような高分子の授業が今行われているのか知らないが、ゴム会社で指導社員から受けた粘弾性論を超える授業は無いだろうと思う。
それほど指導社員により毎朝3時間行われた形式知と経験知を織り交ぜた講義は素晴らしかったし、この講義は一日の鋭気を養うに十分な時間で、ほとんど毎日徹夜に近い働き方でさすがに日々疲労を感じていたが、この午前中の講義のおかげで精神的に異常をきたさなかった。
今から思い出すとマンツーマンで行われた講義で居眠りをしていた度胸と、見て見ぬふりをしていた指導社員の寛容な精神が企業風土の賜物に見えてくる。
睡眠学習の効果で今でも記憶として授業内容が残っており、不思議なことに目をつぶるとそれが夢のように思い出される。その名講義で忘れてはいけない項目の一つにゴムの耐久性評価がある。
講義と並行して指導社員が準備していた試料や日々新たに開発された樹脂補強ゴムの繰り返し引張耐久試験が進行していたが、この耐久試験で特に注意されたポイントサンプルの取り付け方である。面倒でも一個一個短い定規をあてて丁寧にチャックに取り付けなければいけない、と教えられた。
注意してサンプルを取り付けてもワイブル統計で整理すると初期故障に相当するサンプルが1-2個は出る。ただ1-2個は優秀だと褒められたが、耐久評価試験でサンプルの取り付け方は誤差因子となるので注意を要する。
この当時すでにワイブル統計を当たり前に使用していた。このような理由で、セラミックスブームの時にエンジニアリングセラミックスの信頼性についてワイブル統計を用いた議論が学会でなされたことに驚いた。長い歴史をもったセラミックスという材料が人類史上初めて工業用品に使用されるという時代の到来を感じた。
ところで、ゴムや樹脂についてエンジニアリングセラミックスで展開されたような議論を聞いた経験が無い。高分子のエンジニアリング分野への展開の歴史は長いが、ワイブル統計を用いた信頼性評価の歴史は、当時10年の歴史も無いと教えられた。すると高分子学会での議論は行われることなく、企業の基盤技術として普及していった可能性がある。
指導社員はゴムの耐久評価をワイブル統計で行わなければいけない理由について、化学変化と物理変化が合わさってゴムは劣化するため、その両者を加味して評価しなければいけないのでどうしても統計的見方が必要になると教えてくれた。
すなわちゴムの市場における寿命は統計的にとらえるべきで、アーレニウスあるいは時間ー温度換算則を用いた寿命評価では多くの場合に問題を捉えられないという。
温度環境を変えた繰り返し引張試験データをワイブル統計のグラフにすると、配合処方により耐久寿命が異なる。アーレニウスで整理するとその予測された寿命よりも長くなる。
指導社員から教えられたのは、例えば50年後の物性を予測するために化学変化ならばアーレニウスで、物理変化ならば時間温度換算則で予想することは良いが、それで耐久性があると誤解してはいけない、耐久性は信頼性予測で行うものだ、と教えられた。
ところで今週15日金曜日に下記会場で混練のセミナーをゴムタイムズ社(http://www.gomutimes.co.jp/?seminar=%e3%82%88%e3%81%8f%e3%82%8f%e3%81%8b%e3%82%8b%e3%82%b4%e3%83%a0%e3%83%bb%e3%83%97%e3%83%a9%e3%82%b9%e3%83%81%e3%83%83%e3%82%af%e6%b7%b7%e7%b7%b4%e6%8a%80%e8%a1%93%e3%81%ae%e5%9f%ba%e7%a4%8e%e3%81%8b)主催で行います。ご興味のある方はご参加ください。