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2018.06/27 形式知の限界(4)

電気粘性流体がゴムからブリードアウトする成分で増粘する現象は、技術者ならば、「この現象を解決できる界面活性剤はどのようなものか」と改めて問題を設定する。

 

それに対し、科学者は、「増粘現象がどのような機構で起きているのか」という問題を解こうとする。そして「機構が分かれば、対策を考えるだけ」となる。

 

実際に発生機構が解明できたところで、「界面活性剤では問題解決できないからブリードアウトする添加剤の入っていないゴムを開発」しようなどというばかげたテーマで当方の推進していた重要な住友金属工業とのJVの業務を30年ほど前に中断させようとしている。

 

もし科学者然とした本部長ではなく、交代前のU本部長ならば「添加剤の入っていないゴムで商品ができると思っているのか、大馬鹿もん」とどなったはずである。それよりも事業化を進めていたテーマを重視したはずである。

 

事業化テーマと研究テーマとの重要性比較ができないような経営者が日本ではいるようだ。U本部長は定年のため交代されたのだが、U本部長とM研究所長のもとで2億4千万円の先行投資を受けた高純度SiCの事業は、当方が研究開発を開始してから30年以上経過した今でも続いている。

 

交代された本部長が高純度SiCの事業をやめる判断までしていなかったことは、事業が無事立ち上がり当方が転職の決断をしたときにそれを引き継ぐためにプロジェクトが立ち上げられたことからわかる。

 

このとき労働工数の半分だけ電気粘性流体の仕事に割いてよかったと思っている。リーダーは優秀と言われていたが、本に書いてある行動しかできない人だった。

 

おそらく増粘現象の機構が解析できたところで、「すべてのHLB値の領域の界面活性剤を集めて、この発生機構を働かないようにするHLB値の領域が存在するのか調べよ」とリーダーが間違った指示を出したのかもしれない。

 

いずれにせよ間違った問題に対して設定された仮説に基づく実験が、それぞれの問題を解決するために立案され、多くの優秀な人材が投入され1年間推進されたのだろう。現象を改善できる界面活性剤を見つけるのに一晩の実験で一人の人間が鼻歌交じりに解決できたにもかかわらずである。

 

ドラッカーの言葉に、「頭の良い人ほど問題が起きたときにそれを解決できない」というのがある。

 

この言葉の説明として、{間違った問題を正しく解こうとするからだ」「間違った問題の正しい答えに意味があるのか」と説明されている。そして「何が問題か」よく考えることが重要だ、と戒めている。

 

すなわち、電気粘性流体の増粘という現象について、一年間かかって立派な科学論文が書かれたが、それが役立たなかったのは、発生している現象に対して間違った問題を設定して解いたからだ。

カテゴリー : 一般

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