2018.09/04 ブリードアウト問題の難しさ
ブリードアウトは高分子内の拡散と溶解度で科学的に説明できる、と書いたが、いざ問題が発生するとその対策に時間がかかる場合がある。すなわち開発のやり直しという事態になる。
例えばブリードアウトが機能実現のために活用されている場合だ。界面活性剤を用いて帯電防止を行っている場合を事例に問題の難しさを説明する。
ある方法を使えば問題ないのだが、大抵は界面活性剤を樹脂表面にブリードアウトさせて表面比抵抗を下げようと材料設計を行う。この考え方は科学的に間違いではないが、市場でブリードアウト問題を引き起こすリスクを増すことになる。
またこのようなアイデアを思いつく人で科学こそ命と信じている技術者は、界面における過飽和現象が過剰なブリードアウトを防ぐとまで考えてしまう。実際にこれで成功している事例もあるので、このような人にそれは危険だと説明しても信じてもらえない。
その結果、金型汚染の問題を最初に引き起こす。この時科学に裏切られていることにすぐに気がつけば救いようがあるが、科学をこの段階でも信頼していると、ここで問題解決できても、次は市場で問題が起きる。
こうなると、モグラたたきをはじめひどい時にはサラリーマン人生をモグラ退治に捧げる人も出てくる。転職したときに見た光景は、界面活性剤による帯電防止技術ではなくイオン導電性ポリマーを用いた技術でモグラたたきを行っていた。
仮説を立てて、一匹のモグラをたたくことに成功しても他のモグラが顔をだす。うまく仕留めればよいが気を失った状態で市場に出すものだから、モグラが息を吹き返して市場で暴れまわる。
自分の担当ではなかったし、当時の上司は君の仕事では無い、などと言われるので、しばらく見ていたが、科学というものがこれほど薄情であるとは思わなかった。担当者に運が無いと言ってしまえばそれまでだが、誠実真摯に正しい仮説を立てて一生懸命モグラをたたいていた。
優秀な科学者、主任研究員なので、上司であるセンター長に方針変更を当方が申し出ても「科学的に進められているからしばらく彼に任せておこう」となった。
しばらくしてバブルがはじけ、この優秀なモグラハンターが部下になった。すぐに技術コンセプトを大きく変えて問題解決した。モグラが大量発生しているシステムでは科学による問題解決法を用いてもゴールにたどり着ける保証は無いのだ。
あのヤマナカファクターでさえあみだくじ方式で成功している。ブリードアウトという問題に真剣に取り組むとドストエフスキーの宗教世界とは少し異なるが、科学という哲学についてカラマーゾフ兄弟のように葛藤することになる。そしてその結末は?
カテゴリー : 高分子
pagetop