2013.05/04 成功する技術開発(11)
フローリーハギンズの理論を確立された理論として信用すれば、ドメインサイズを小さくするナイロン樹脂を選択するとは、絶縁体樹脂とブレンドしたときにχが小さくなるナイロン樹脂を選択するという意味である。ここでナイロン樹脂に制限する理由は、前任者から業務を引き継いだときに、絶縁体樹脂と6ナイロン樹脂、カーボンブラックという配合を変更することができない状況だったから。もしこの制限が無ければナイロン樹脂にこだわる必要は無い。配合処方にまったく制限が無い状態が最も研究開発を進めやすい状況であるが、ここではいろいろ制約がある場合の技術開発について考えるための例として配合処方の制限を取り上げている。配合処方の制約は材料開発を行うときにかなり厳しい制限事項になる。
χが小さいナイロン樹脂を選択し半導体シートを作成したところ、6ナイロン樹脂を用いたときと同様に電気特性が安定したシートが得られただけでなく、期待したドメインサイズも小さくなっており、靱性の向上したシートが得られた。すなわち材料のあるべき姿を明確にして、それを実現できる技術手段を選択し実行したところ期待通りの製品ができたのである。しかも絶縁体樹脂とナイロン樹脂、カーボンブラックという配合の制約の中で実現できた。当初6ナイロン樹脂の6がとれた状態ですよ、と関係部署の承認を得ようとしたが、6ナイロン樹脂とナイロン樹脂の違いが問題となった。6が無いだけだ、という説明ではさすがに説得できなかった。
ここでさらに4をつけて4,6ナイロン樹脂ではダメか、という議論をしてはいけない。周囲の雰囲気を考慮し、周囲に受け入れてもらえる現実的な選択肢を提案すべきである。ちなみにフローリーハギンズ理論によれば、6ナイロン樹脂よりも4,6ナイロン樹脂のほうが今回の系ではχが小さくなる。調整の仕方をあせってブレークスルーできる手札を否定されるような失敗をしてはいけない。事業を成功に導く技術手段を周囲に受け入れてもらえるようにうまく表現しなければならない。
多くの会社では1990年以来ステージゲート法類似の方法で研究開発管理を行っている。研究開発の各段階で評価する項目が決められており、処方変更が許されるのは開発の初期段階である場合が多い。すなわち機能材料において処方変更は全く異なるコンセプトの技術手段となるためだ。今回の開発では、コンパウンドを外部から購入することが前提となっており、配合は開発の初期段階で決めなければならない。開発の終了段階で許されるのは購入先変更だけである。
思い切って開発初期段階に戻す、という判断は、製品化時期を半年後に控えた状態では、経営への影響が大きい。しかし、フローリーハギンズ理論を信じる限りにおいては、配合の変更以外に技術手段は存在しない様に見える。技術経営の考え方がうまく機能しておればこの場合の判断は開発中止になってもおかしくない状況である。しかしそうならない状況がしばしば生じるので研究開発のマネジメントは長年のテーマとなっている。単純にマネジメントの問題という一言では解決できない。企業の技術者が技術以外のスキルを要求される理由でもある。
<明日へ続く>
pagetop