2019.02/21 PPSと6ナイロンの相溶技術(5)
DSCの測定結果が出るまでに、金型の図面を精査した。詳細はここにかけないが、PETフィルムに用いるTダイと明らかに異なる構造が多数存在した。
担当者に説明を求めると6年間の開発成果だという。すなわち、コンパウンドに問題があるにもかかわらず、金型の改良で問題解決してきた結果だった。
担当者は、それぞれの改良ポイントを科学的に説明してくれた。もし、歩留まりが80%を超えていたならば、その説明は称賛されるような素晴らしい内容だった。
担当者の科学的に完璧な説明に関わらず、現実には歩留まりは10%以下と散々な状態である。6年間科学的に金型改良を進めた結果は、半年後に生産を控えている状態ではなかった。
それでも担当者は、改良した瞬間はその効果が現れた、と胸を張っていた。どうやらコンパウンドのロットが変わると改良効果が消えるので、コンパウンドのロットが変更になるたびにモグラたたきのごとく改良を進めてきたようだ。
「科学的に完璧な説明」については、転職の原因になった電気粘性流体の開発にかかわったというトラウマがあった。担当者の説明にむなしさを感じながらも表情には出さないように配慮した。
中間転写ベルトという複写機の部品で一番重要なスペックは、周方向で均一な電気抵抗になっている必要があった。それも10の10乗Ωという導電性カーボンで実現するには中途半端な値である。この値を実現するにはパーコレーション転移という現象を安定に制御する技術が必要だった。
詳細は省略するが、カーボンの分散が究極のレベルまで実現されておればカーボンの添加量に相当する抵抗となるが、分散が中途半端であるとプロセスの途中で分散が進み、抵抗が変動することになる。
金型の改良の歴史は、それを意図してはいなかったが、視点を変えると分散を進める様な工夫に見えた。その工夫の中で、カオス混合に相当する分散を実現できるような工夫があった。すなわち、その工夫を一つの機能性部品として捉え、二軸混練機に取り付ければ、汎用の二軸混練機を用いてカオス混合が可能になる、と考えた。
DSCのチャートを見て、歩留まり向上の問題解決方針ができたことを確信し、生産の最後に毎回行われる、速い押し出し速度によるシリンダー清掃で得られるゴミベルトを収集するように指示をだして東京へ帰宅した。
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