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2019.04/17 家を建てるなら(5)

オーディオという趣味はお金がかかる趣味である。また、自然の音を電気で再現することの難しさを考えると、ゴールのない趣味である。

 

そもそも趣味にゴールを考えるのはナンセンスであるが、自分ですべてをコントロールできず、金さえあれば欲求が満たされてゆくような趣味は、麻薬のようなものだ。

 

卒業研究に取り組み、趣味であった化学実験を思う存分できる環境ができたときにそれに気がついた。卒業研究は一生懸命取り組むと指導担当の先生(助手)から褒められて、次々と新しい論文を読むように勧められた。

 

当時天然物の合成がブームであり、またTVでは小椋佳作詞作曲で布施明の歌がヒットしていたので、シクラメンの香りの合成を目標にしていたのだが、発表されたばかりの新反応を取り込み半年もかからず清々しい香りが実験室に充満するようになった。

 

指導されるがままの、アルバイトの回数も減らし夜遅くまで実験をしていたので、今でいうブラック企業のような環境だったかもしれないが、無料で腹いっぱい実験ができる楽しさはオーディオよりも最高の趣味に思えた。

 

出版されたばかりの雑誌に発表された新反応を自分で開発した化合物に応用しながらシクラメンの香りを目標に反応条件を検討する楽しみは、初めて有機合成を担当した学生には最適なテーマだった。

 

自然科学という学問の良いところは、対象が自然現象である点である。ところがオーディオという趣味は、ハイファイ再生装置を開発している人は楽しいかもしれないが、その成果を金で楽しんでいる立場では、どこか満たされない部分が残る。

 

この満たされない部分を考えてゆくと、「ブラックボックスをお金で購入している」という行為をどのように考えたらよいのか、という問題にゆきつく。そもそもブラックボックスを解明したいという欲求が強かったので子供のころから科学にあこがれたのである。

 

工務店社長が気を利かせてくれたおかげでオーディオという趣味に足を踏み入れたが、当方の性分には合っていない趣味であると気がついた。すなわちアルバイトで稼いだお金の大半を投じたにもかかわらず飽きたのである。

 

初めてのアンプは、OTTOのマルチアンプ。帯域ごとに独立したアンプでスピーカーを駆動するので良い音がした。しかし、ONKYOインテグラの迫力あるステレオ再生を聴き、マルチアンプでなくてもよいことに気がついた。

 

アンプを換えたらスピーカーが物足りなくなった。25cmウーファーよりも30cmのほうが低域再生に優れている、ということでパイオニアの30cm3wayスピーカーへ買い替えた。ツイターにはマルチセルのホーンがついていた。

 

音量を上げたら家が揺れたような気がした。30Hz以下まで出るとスピーカーの仕様書には書かれていたが、映画「大地震」のサントラ盤を聴いたときに映画館以上の迫力にびっくりした。

 

これは、お金の成果である、と低周波が聞こえたときに、ややむなしさを感じた。お金をかければかけただけの成果がでるのがオーディオの世界であり、その果ては無く、ブラックホールの様な趣味なのかもしれない。

 

カテゴリー : 一般

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