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2019.05/22 ガラス転移(2)

セラミックス焼結体は、結晶を非晶質ののりで固めたような構造の物質である。この非晶質相を粒界相という。この粒界相にはガラス質のものもあり、焼結の機構を調べるためにもガラスからの結晶成長研究は研究テーマとして意味があった。

 

おまけに研究として取り組みやすかった。難しいところは皆研究をしないので同じパターンの研究論文ばかりだった。学位論文を読むと、誰でも学位をとれそうな気分になる論文ばかりだった。

 

すなわち、粉末X線で結晶を同定し、電子顕微鏡でその結晶を観察して、論文が一報出来上がる。気の利いた人は実際に結晶を作成して速度論の論文を継続研究として提出しているが、レベルの低い研究者は、例えばNaをCaに代えただけで同じ実験をやり、論文を書いていた。

 

だから1ケ月に1報論文を書けるような研究で7年かけて学位をとっている研究者もいた。当方は修士二年間に、ホスホリルトリアミドの重合研究やホスフォリルトリアミドのホルマリン付加体合成、ホスフォリルトリアミドを用いたPVAの難燃化研究、ホスフォリルトリアミドのプロトン導電体としての可能性、各種ジアミノホスファゼンのNMRによる構造同定、ホスフォリルトリアミドとジアミノホスファゼンの共重合研究と一人で6報書いている。

 

修士二年間で、さらにたった一人で6報書いた学生は初めてではないか、と褒められたが、奨学金をもらい、授業料も無料だったので当たり前でしょうと応えている。

 

今なら、「先生のご指導の賜物です」というぐらいの言葉は自然と出てくる。若い時は謙遜という言葉をしらない傲慢さで自信に満ちていた。このようなときには自信が力になり猪突猛進でいくらでも成果が出るのだ。

 

ただ本音は論文のパターンが皆バラバラなので論文をまとめる作業が大変で必死だった。特にPVAの難燃化研究は、高分子の難燃化研究と言うテーマがニッチな分野であり、アメリカの工業雑誌に実務的な内容の論文が出ている状態だったので論文のひな型を探すのに困った。

 

研究論文と言うものは先駆者の論文をお手本にして書くものだと思っていたから、自分がその分野の先駆者になったときに論文をまとめる作業が大変であることを知った。そして、研究者にはなるまい、と思った。技術者の先駆者は研究者の先駆者よりも楽である。社会に新しい価値を創造し、そして役立つ「モノ」を造れば良いだけだ。

 

能力の限界を感じる前に技術者を目指すのは、精神衛生上健全である。研究者で成功するためには大変高い能力と運が要求されるが、技術者は誠実真摯に努力すれば、創造された新しい価値に自然と周囲の英知が集まり開発に成功できる。健全な組織で開発に成功すれば必ず成功の喜びを味わうことができる。

 

退職最後の仕事は回収PETボトルを複写機部品に応用する仕事だった。中国ローカル企業で立ち上げたのだが、この仕事を引き継いだ担当者が社長賞を受賞した時にその記念品のPETボトルを送ってきた。この出来事は大変うれしかった。ちなみにPETのガラス転移点は2Tcmax=Tm+Tgの関係があることが知られている、と1週間ほど前に書いている。

 

カテゴリー : 高分子

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