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2013.06/25 科学と技術(混練8)

ゴム会社で社会人1年生となったが、運が良かった。技術者とは何か、技術の伝承の仕方、科学と技術の役割の違い等1年間に多くのことを学ぶことができた。半年に及ぶ新入社員研修と優れたメンターのおかげである。

 

10月に配属され樹脂補強ゴムの研究開発を指導してくださったメンターはゴム材料技術者として大変優秀な人だった。また、配属先の居室の斜め前の部屋には、当方が配属されて半年後東大へ転職された西先生がいらっしゃった。給与をもらえて勉強できて、大変に恵まれた環境で技術者としてスタートできた。

 

メンターはレオロジーの専門家で、HPの関数電卓で常微分方程式を解きゴム材料の動的粘弾性についてシミュレーションを行う器用な人であった。新入社員用のテーマ説明書には、電卓でシミュレーションされた物性データとその基になる考え方が10ページほどにまとめられていた。

 

1年かけてそのシミュレーションデータの挙動を示す材料を開発する、というのがテーマである。そして、その10ページに及ぶテーマ説明書は誰にも見せてはいけない、という。理由は課内会議のその年の1年分のネタだからだ。また特許出願も1年後に予定しているから、というのも理由の一つであった。

 

この仕事のやり方は極めてエレガントだと思った。単なるアクションプランだけではなく、アクションの結果まで予測しているのである。ここまで仕事が整理されていると、何か異常事態があったときに軌道修正をすぐにできる。

 

Oさん(メンター)と仕事をすると大変でしょう、と同情の言葉をかけてくれた人がいた。噂では、Oさんと一緒に仕事をやった人は皆やらされ感で仕事のやる気がなくなったそうである。当方は、1年間の仕事がここまで整理されているなら、これを半年でやり遂げたらどうなるか、ということを考えていた。あるいは1年先のデータを最初に出してしまったらどうなるか、ということも考えていた。

 

メンターは作業の一通りを指導してくれた。その後、ゴムの配合表と、サンプル5本を渡されて、自由にバンバリーとロール混練の練習をして、サンプルと同じゴムを作れるようになってから実験を行うように言われた。サンプルは、当時タイヤのビードフィラーに採用予定の最先端の樹脂補強ゴムであった。簡単な作業と思っていたら、サンプルと同じ物性を示すゴムを混練できるようになるまで1週間かかった。

 

1週間毎日同じ配合のゴムを混練し加硫、物性を評価する、という単純作業の繰り返しであった。実験室では諸先輩が実験装置の扱い方のコツをいろいろと教えてくださった。面白かったのは流派が2つほどあり、混練装置の扱い方が異なっていたことである。今から思えば、無駄な捨てる材料は多くなるが、メンターが指導してくれた中型の装置を使用してゴムの混練をする方法が近道であった。

 

同じ物性のゴムが得られたことをメンターに報告すると、実験室で誰のアドバイスが参考になったか、と質問された。Aさんだ、と正直に答えたら、今後分からないことがあったらAさんに聞くように、と実務のやり方までうまく教えてくれた。ホーレンソーの重要性が言われるが、誰に何を相談したら良いのか、早めに覚えることは、実務を効率良くこなすために大切なことである。上司に相談内容を報告することは常識だが、上司不在の時など仕事の相談を気軽にできる人が身近にいた方が便利である。

 

カテゴリー : 一般 高分子

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