2013.06/29 科学と技術(混練12)
混練について研究するためにはレオロジーを理解していることが必要になる。しかし、ダッシュポットとばねのモデルで高分子のレオロジーを論じるのは、もはや時代遅れである。今高分子のレオロジーはOCTAでシミュレーションし、研究を進めるのが科学的な一手段となっている。ところが、8年前2種類ほど混練のシミュレーターを購入(注)し使ってみたが、1000万円近くする市販の混練のシミュレーターには、OCTAが使われていない。ひどいのは16ビットで計算している前世紀のシミュレーターもあった。
OCTAは無料である。OCTAは20世紀末、当時名古屋大学教授土井先生がリーダーとなり、国家プロジェクトで開発された高分子シミュレーターである。国家プロジェクトの中では、大成功のプロジェクトと皆が認めた成果である。OCTAの名前の由来は名古屋市のマーク“八”からきている。OCTAは、GURMETのもとにCOGNAC、PASTA,SUSHI,MUFFINの4つのメソシミュレーターが用意されたオープンソースでマルチプラットフォームのシミュレーターだ。
このシミュレーターの良いところは、開発された当時のパソコンの能力程度、すなわちペンティアムⅢ1GHzでも動くことである。土井先生は東大に移られた後もご退職まで開発を続けられ現在もこのシミュレーターは進化しているが、SUSHIは材料設計に有効に使えるレベルである。ただし、フローリーハギンズの理論が基になっていることを知っておく必要がある。
フローリー・ハギンズ理論については、大枠の考え方では正しいのかもしれない。SUSHIで幾つかのポリマーアロイの相分離をシミュレートし、実際に二軸混練機で混練を行うとシミュレーション通りに相分離する。そして、そこへ他の添加剤を入れたときの分散状態をシミュレートしても、おおよそ当たっており、実験結果と良く合う。普通に二軸混練機で分散を行う時には実用性のあるシミュレーターである。
無料でここまで実用性のあるシミュレーターが手に入るが、やや敷居が高い。敷居を低くしたJ-OCTAと言うソフトウェアーが販売されているが、こちらは敷居が低くなった分有料で、お値段は一般のシミュレーター並み、と価格は高い。
混練の市販のシミュレーターがOCTA以外まったく使えなかったか、というと、予想外ではあったが、16ビットで稼働しているソフトウェアーがツールも充実しており、素人が使うには良くできたソフトウェアーで、混練時の温度分布は、実用性のある結果だった。ただし、このソフトウェアーで出てくる結果は、二軸混練機の実務を少しかじれば予想がつく。
(注)当初購入したシミュレータは使いにくい上に、シミュレーション結果が実際の結果とうまく合わなかった。使いやすい16ビット版を購入し直したところ、メッシュの制約があるもののユーザーインターフェースも良くできており、使いにくいシミュレーターと同じ事ができて値段は安かった。ただ、温度分布以外は使い物にならなかった。プレゼンの絵を描くのに利用した程度である。1000万円は高い。OCTAは無料である。
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