活動報告

新着記事

カテゴリー

キーワード検索

2013.07/01 科学と技術(混練14)

昨日、実用上は無駄なデータとして周囲から扱われたが、科学の視点では注目すべき実験データが得られた経験を書いた。ポリスチレンとポリオレフィンを相溶させて透明な樹脂が得られた実験であるが、この結果についてもう少し説明する。

 

ポリスチレンは規則的に重合させる技術は確立されているが、完全にランダムに重合させる技術が知られていない。そこで可能な限り不規則になる重合条件でポリスチレンを合成した。その中の一つがアペルにブレンドすると透明になったのである。ちょうど鍵と錠の関係でうまく立体的に噛み合う組み合わせが見つかったのである。

 

ポリスチレンとポリオレフィンの組み合わせはχが正なのでフローリー・ハギンズの理論からは相溶しない組み合わせになるが、きれいに相溶し透明な樹脂が得られていた。この実験結果は、立体的な組み合わせで安定になる条件が揃えば、高分子が相溶する可能性を示している。イメージを膨らませ、もし混練で分子のコンフォメーションを制御できるならば、どのようなポリマーブレンドでも混練時に相溶させることができる可能性を示している。

 

このような発想が科学的に正しいかどうかは問題ではない(注)。技術的にそのようなことが高いロバストを確保して実現できるかどうかが重要である。その上、この場合になぜ科学的に正しいかどうかが問題にならないかと言えば、すでに科学的に否定できないが科学者が説明できない現象が目の前に起きているからだ。このような状態の時、科学者は、新たな真理を求め研究を進めるが、技術者はこの現象を活用し、新たな機能実現に向けて努力する。

 

目の前にあるχが正であっても高分子のコンフォメーションを制御してやると高分子が相溶するという事実を新たな機能実現に活用しようと考えるのが技術者である。科学的に不明確な現象を技術に応用して大丈夫か、という心配は不要である。科学的に不明確な現象でもロバストネスを確保できる条件が見つかれば、実用化可能な新しい技術が生まれるのである。科学では繰り返し再現性が重要だが、技術では繰り返し再現性だけでなくそのロバストネスが重要である。

 

また、新たな現象を見いだしたときに新しい技術へチャレンジするのか、無駄なデータとして扱うかは、技術者と職人の分かれ目であり、新たなチャレンジを行おうとする点では、科学者と技術者は似ている。ゆえに技術者にも心眼でイメージした結果を確認する実験は重要な活動の一つである。昨日紹介した小竹先生の「etwas news」は、技術者にも大切なキーワードである。

 

(注)弊社の問題解決法では、科学的視点ではなく、技術的視点で問題解決にあたれるような仕掛けを工夫している。科学的な問題解決を忠実に行うTRIZやUSITと大きく異なる点である。

カテゴリー : 一般 高分子

pagetop