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2012.08/27 研究開発におけるコーチング(事例1)

10数年前からコーチングブーム(最近は?)ですが、研究開発の現場に限定した効果的なコーチング方法を聞いたことがありません。10数年前にコーチングの研修を受けましたが、そのままでは研究開発の現場でうまく使えませんでした。部下から「急にどうしたのですか?」と上司の変化にとまどう質問までされました。コーチングされる側の研修も必要などと開き直ってみてもマネージャーとしての成長が無いので、部下の顔色を見ながら工夫してきました。その結果たどり着いたのは、研究開発の現場では、それなりのコーチングスタイルが昔から実践されていたのではなかろうか、という結論です。すなわち優れた技術者ならば自分の経験知をその人なりの方法で伝えようとするものです。30数年の研究開発現場で出会った優秀な技術者は皆そうでした。その中でも新入社員時代に出会った指導社員は、大変教育熱心な人でした。例えばゴム練りの技術の指導では、以下の手順でした。

 

1.ゴムサンプル作成のための実務上必要な知識と作業を一通り短時間で指導。

 

2.あるサンプルの処方とその処方で作成された標準ゴムサンプルを提示し、新入社員にサンプル作成を指示する。

 

3.新入社員が作成したゴムサンプルの物性と標準ゴムサンプルの物性との比較を行い、議論する。

 

 

たった1処方ですが、標準サンプルと同等レベルの物性を備えたサンプルが得られるまでに1週間ほどかかりました。加硫ゴムというものはプロセスの影響を大きく受けますので、実験段階でもあるレベルまでのゴム練りのスキルが要求されます。そのスキル会得の目的と加硫ゴムについて理解を深めるために1週間という練習時間をくださったわけですが、その時行ったなぜ標準サンプルとの差がでるのか、という議論が、今から思えば研究開発におけるコーチングの優れた見本のように思っています。

 

この議論は、毎日同じパターンで行われました。すなわち、標準サンプルと練習で作成したゴムの物性比較を行い、劣っている物性について、その原因を議論する、材料開発ではおなじみのパターンです。毎日同じゴム処方で実験を行っていましたので、要するにゴム物性のばらつきを議論しているにすぎないのですが、ゴム物性のばらつきがプロセス因子にどのように影響を受けるのか明確ではない時に、それを学ぶには良い手段ではなかったかと思います。毎日同じ処方を同じプロセスでサンプル作成していたのですが、不思議なことに数日で物性が安定して出るようになりました。スキルが向上しただけですが、毎日の議論のおかげで加硫ゴムの理解が深まっただけでなく、原材料からプロセスを経て形になるまでのスキルやどのように観察をすれば良いのかなどの暗黙知を身につけることができました。この暗黙知は担当した防振ゴム開発で新たなアイデアを引き出す基になっただけでなく、30年経って担当した樹脂開発でも新たなアイデアを生み出す原動力になっていたと思います。

カテゴリー : 高分子

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