2013.07/13 科学と技術(リアクティブブレンド1)
異なる高分子同士は混ざりにくい。科学の世界では混合による自由エネルギーの変化を表すフローリー・ハギンズ式でこれを説明する。学生時代には試験に出たりするなじみのある式である。科学の常識があると、通常はポリエチルシリケートとフェノール樹脂を均一に混ぜようということは考えない。
ゴム会社入社2年目にポリウレタン発泡体の難燃化技術を担当した。ポリウレタン発泡体は、イソシアネート化合物とポリエーテルポリオール(以下ポリオール)、発泡剤として水を用いて合成する。初めて発泡体を合成したときにイソシアネート化合物とポリオールが、無溶媒という条件でうまく反応することに感動した。
生成物の分析を行っても98%以上の反応率である。実験をやりながら、ふとフローリー・ハギンズ式を思い出した。メンターの女性に質問すると、リアクティブブレンドだから当たり前だという。反応には界面活性剤も関与しているはずだが、リアクティブブレンドの場合には、高速剪断で撹拌してやれば界面活性剤が無くとも反応が進行するという。リアクティブブレンドとは、そのような技術だそうだ。
実際に界面活性剤を抜いて実験を行ったところ、安定した発泡反応こそ実現できなかったが、イソシアネートとポリオールの反応は進んだ。昨日までゴムの配合処方を立案するときには、溶媒にゴムを溶かしSP値を求める作業から行っていたが、ポリウレタンの合成では、SP値などお構いなしである。
高速剪断により撹拌され、イソシアネート化合物の微細な粒子の界面で反応が進行し、ポリオールとイソシアネートの理想的な界面活性剤が生成する。これが反応を均一に進行させる働きをする。ゆえにイソシアネート化合物は高分子量体でも反応は進行する。
以前ホスファゼン変性ポリウレタンフォームの話を書いたが、ホスファゼン変性ポリウレタンフォームでは、イソシアネート末端を有するホスファゼンのプレポリマーを合成し、添加している。その結果ホスファゼンがポリウレタンマトリックスに取り込まれ効率良く難燃剤として機能していた。
ホウ酸エステル変性フォームも同様で、ホウ酸エステルや組み合わせたリン酸エステル系難燃剤は、ポリウレタンマトリックスに均一に分散し、難燃性ポリウレタンフォームとして合成された。イソシアネートが反応性の高い基なので、水酸基を有する液状ポリマーであれば、何でも放り込める便利なシステムだ。
水酸基とイソシアネートのモル比を揃えてやれば、かなりずぼらな処方でも反応が進行して均一なポリマーとなる。おまけにイソシアネートを少し過剰に入れてやることでそれが架橋点になり容易にエラストマーや熱硬化性樹脂を合成可能である。ある機能実現のためにも便利なシステムだ。
この経験は高純度SiCの前駆体合成技術開発で大変役にたった。ムーンライト計画によりわき起こったセラミックスフィーバーの影響で、セラミックス材料の企画をすることになった。高分子から高純度セラミックスを合成するコンセプトで技術調査を行ったところ、故矢島先生のSiC繊維技術以外に実用化されていなかった。
新しい技術としてフェノール樹脂とシリカの組み合わせあるいはポリエチルシリケートとカーボンブラックの組み合わせによる高純度SiCの合成法特許が存在した。
面白いことに、ポリエチルシリケートとフェノール樹脂の組み合わせが無かった。
<明日に続く>
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