2020.04/09 科学的でないことを軽視する人
京都大学と慶応大学の研修医は、科学的ではない現在の取り組みに対して批判的な行動をとった。それが、慶応大学では18人の感染者数を公開し、京都大学では全員を隔離するという粋な計らいをしている。
検査をしないでいきなり隔離するという非科学的な行為が現代にふさわしくないかどうかは問題ではなく、現在の行為として京都大学の対応は評価される。
ただ、隔離ではなく、コロナ禍で医師不足となっている医療の最前線で勤務させればさらに国民の理解が得られたかもしれない。
要するに科学的でないことを軽視する人に、技術なるものを理解してもらうには、非科学的ではあるがそれが「日々の生活の中で適切である行為」というものをまず理解してもらわなくてはいけない。
科学的ではないことを軽蔑している人は、この行為すら非科学的とバカにする。例えば高純度SiC粉末の合成に成功した時に、ゴム会社の主任研究員が「僕もエチルシリケートとフェノール樹脂の組み合わせに気がついていた」と言ってきた。
そして、「ただ、フローリー・ハギンズ理論を知っていたので実験をやろうという気になれなかった。君はセラミックスの専門家だからよかったね」とあたかも当方がフローリー・ハギンズ理論を知らないから成功できたような口ぶりである。
それに対して当方は「知らないから成功できたというよりも知りすぎていたので、非平衡下のリアクティブブレンドの可能性にかけてみた」と応えている。
以前この欄でカミングアウトしているが、学生時代教科書の欄外に書かれていたフローリー・ハギンズ理論を本当に知らなくて追試を受けていた。ゆえにこの理論についてはこの主任研究員より深い理解をしている自信があった。
この主任研究員は、試行錯誤でリアクティブブレンド技術を開発したことをバカにしていたのかもしれないけれど、リアクティブブレンド技術というものは、最初の手掛かりとなる配合条件を見つけるためにはどうしても試行錯誤的となる。
それが効率的に開発できる唯一の方法だからだ。論理的に進めた場合には、できない理由を積み重ねてしまうような過ちを犯すことがある。
例えば、電気粘性流体の耐久性問題は界面活性剤で解決できない、という結論を1年かけて完璧な科学的データ(注)を集めてまとめた優秀な研究者集団がゴム会社にかつていた。
当方が一晩でこの問題を界面活性剤を用いて解決した(補足)時に、この報告書の存在を知らなかったが、転職時にはじめてそれを見せていただき、完璧な科学論文であったことにあきれた。完璧な科学の論理で技術ができない場合もあるのだ。
科学的でないことを理由に技術を軽蔑する人には当方の転職体験を聞かせたい。禁煙パイポの「私はこれで会社を辞めました」、というセリフを小指ではなく「腕」を突き立て話をしめるかもしれない。
慶応大学については文春砲が炸裂し、大学が隠蔽化しようとした努力が無駄になった、というニュース記事を見つけたが、今の時代隠蔽化は良い結果を生まないことは明らかである。機会があれば、組織が隠蔽化に動くメカニズムを実体験から解説したい。
(注)典型的な否定証明が展開されていた。科学の方法で気をつけなければいけないのは、科学的に完璧に論理を展開できるのは否定証明だけ、というイムレラカトシュの言葉がある。ところが、否定証明された現象でも技術で実現できる可能性があることを科学で硬くなった頭脳の持ち主は、理解できない。理解できないだけならよいが、科学的ではない技術の解を前にしてヒステリーを起こす人もいた。3密を軽視した慶応大や京大の研修医はヒステリーとは異なるかもしれないが、週刊誌報道には凡人に理解できないヒステリーよりも奇妙な行動が報告されている。
<補足>300種類の界面活性剤を1種類ずつ、増粘してどろどろとなり機能しなくなった電気粘性流体に添加し、一晩静置しただけである。翌朝には300個の試験管を軽く振るだけで解決方法を見つけることができた。2種類ほど見出した。この時、1000種類の界面活性剤について主成分分析を行い、そこから300種類を選んで実験を行っている。すなわち当方の頭がAIならばマテリアルインフォマティクスによる電気粘性流体の設計となる。これは30年近く前の実験なのでAIがなかった。主成分分析はLATTICE_Cで作成したプログラムをPC9801で走らせて行っている。当時LATTICE社の処理系には豊富な数学ライブラリーがあった。高価だったが自前で購入し日曜日はそれでプログラムを作成していた。電気粘性流体の仕事では、高純度SiCのJVと同時に一人で遂行していたので、自宅業務が多かった。ゆえにFDを壊されるいたずらは業務妨害そのものだった。
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