2013.07/20 科学と技術(リアクティブブレンド8)
2000℃まで計測可能な熱天秤の設計で一番問題となったのは、天秤を組み立てる材料である。センサーはW/Reを使用することができたが、その他の部品がアルミナや石英では2000℃までもたないのである。大変高価な熱天秤になりそうなので、材料については既存の材料を使用する設計方針で加熱系を工夫することにした。
赤外線イメージ炉を使用した熱天秤が市販されており、そのイメージ炉を使用して試料だけの局部加熱を行い他の部品への影響を試験した。しかしアルミナの部品が1600℃で変形したので、その温度までが赤外線イメージ炉を使用した場合の限界となった。試料ケースをカーボンで作り、YAGレーザーで直接加熱する方法を試みたところ、周辺の部品への影響はほとんど無かった。但し、試料ケースを直接加熱するとカーボンが少し蒸発し、それが重量減少を引き起こしノイズとなって現れる。
直接加熱が無理ならば、ということで試料ケース近くにセットしたカーボンをYAGレーザーで加熱したところ、2000℃まで安定に試料ケースを加熱することができた。また30秒以内に2000℃に到達する。温度上昇を見ていると、試料ケース下に取り付けられたセンサーの感度の影響で時差が生じていると思われた。
この方法ならば2000℃までの温度領域で反応速度論の研究に使用できる熱天秤ができる、と思い、赤外線イメージ炉とYAGレーザーを組み合わせた熱天秤を開発することにした。加熱系部分をすべて手作りで行い、世界で初めての超高温熱天秤を真空理工と共同で作り上げることができた。
この熱天秤を使用してリアクティブブレンドで製造された高分子前駆体の炭化物を用いた等速昇温実験や恒温測定実験を行った。データは均一素反応で進行していて、反応の誘導期間まで観察された。TGA測定データはAvrami-Erofe’evの式で解析できた。また、高分子前駆体の反応条件がずれたときの問題についてコンピューターシミュレーション(注)も行い、前駆体の品質管理が熱分析でできることを確認した。
解析結果から反応の活性化エネルギーは391kj/molと求められた。この値は炭素の拡散に必要な活性化エネルギーよりもわずかに大きいので、この前駆体炭素中の反応は、炭素の拡散律速で生じていると推定した。すなわち、速度論の解析で求められた活性化エネルギーや他のパラメーターの考察から、生成したβSiCの結晶核の表面へ炭素が拡散しシリカを還元しながら結晶成長している、と推定した。
この科学的に導かれた結果から、前駆体の品質管理方法や、独自の異形横型プッシャー炉の運転条件の概略を決めていった。リアクティブブレンドの反応条件は、試行錯誤で決めたために技術はできたが、詳細は未解明のままだ。しかし、その前駆体を用いたSiC化の反応は均一素反応で進行したので、技術について未解明な部分があるにもかかわらず、透明な有機無機ハイブリッド前駆体ポリマーは分子レベルで均一になっていると推定された。この6年後住友金属工業とのJVが立ち上がるのだが、リアクティブブレンドの反応条件は、酸触媒をスルフォン酸系からカルボン酸系に変更した程度で、フェノール樹脂とポリエチルシリケートの組み合わせで前駆体高分子を合成する手順は短時間で完成した技術がそのまま使用された。
(注)シリカとカーボンが不均一に分散した状態で反応を行うと見かけの反応機構は変化する。反応速度論的解析手法の問題点として、見かけの反応機構でも公知の速度式で解析できる時がある。ゆえに重量減がCOガス、SiOガス、Siガスの3種で起きたときにどのような重量減少になるのかをシミュレーションで検討した。
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