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2013.07/24 科学と技術(3)

電子写真用転写ベルトを開発していたときに、「写真工業と静電気」に書かれていた技術で解決できそうな問題に遭遇した。しかし、技術を理解していなかったために活かすことができず、問題解決に2ケ月という時間を費やすことになった。

 

2ケ月程度で技術を再構築できるならば技術の伝承などしなくても良い、という考え方もできるかもしれない。しかし、技術には複合化し発展する側面があることを知るべきである。基盤技術を重視した経営を一部のメーカーが行っている理由でもある。技術を伝承する努力は重要な活動である。「写真工業と静電気」に書かれていた技術は、30年以上前に静電気を活用した商品へ応用できたはずである。

 

カラー電子写真システムはレーザーを用いた先端のデジタル機器であるが、美しい画像情報を出力する技術について科学的にすべて説明できていない。例えば画像を形成する網点再現性は転写ベルトの表面比抵抗と相関しているデータを「作る」ことはできる。しかし、ベルトの材料が変わるとこの相関とは異なる関係が見えてくる。PIをマトリックスに用いたベルトよりもPPSの方が、同じ表面比抵抗でも網点再現性が優れていた。

 

また、PIでは高抵抗領域のベルトを設計できないがPPSでは高抵抗領域のベルトを設計できると思われる。「思われる」と書いたのはそのための研究をしていないからである。ただ、間違えてPPSで高抵抗のベルトを作成し画像を出力してみたら大変良かったが、「高抵抗のベルトだからこの程度でしょ」と周囲が言うのでそれ以上は検討せず(注1)、こっそりとルーペで網点再現性を見ただけだ。驚くほど美しいドットであった。

 

静電気が関わる機能は科学で完璧に説明できない部分がどうしても出てくる。システムの概略は均一な材料を仮定した誘電体論で説明できるが、商品設計になると均一な材料を使用していないので、怪しい「技」も繰り出さなければならない状況も出てくる。カラー電子写真システムはこのような技術で生み出されるのでリバースエンジニアリングがうまくできないおもしろい商品の一つである。またこのような商品なので常識的な見方をしていると大切なところを見落とす。

 

定年退職5年前に、カラー電子写真システム分野で、転覆しかかっていたテーマを運良く担当することができた。教科書の知識しか無い他の人では絶対にゴールへたどり着けないテーマであることをすぐに理解できた(注2)。単身赴任してこのテーマを無事立て直し商品化へ結びつけたが、科学と技術について、これまで述べてきた教訓の重要性を確認できた。

 

科学的知識だけで対応出来ない技術の世界が21世紀になった今日でも存在している。ゆえに、非科学的方法でもそれが重要な技術的手段ならばためらわず実行すべきである。ヤマナカファクターもこの方法で見つかっている。このような科学と非科学が混在したシステムの問題解決で弊社の問題解決法は有効である。

 

(注1)企業の風土にも依存するが、教科書に書かれていない、あるいは教科書と異なることはすべて間違い、という風土では、新発見をできない。33年間の技術開発生活で小さな事柄も含め多くの発見があったが、それを周囲に話して何度も痛い目に遭った。コミュニケーションの努力だけでは片づかない問題がある。外部の先生の名前をお借りして周囲を納得させる方法もとったりしたが、一番の問題は科学的知識が不変である、という常識である。科学は、発見により過去の真理がひっくり返ることだってある事を知るべきである。

 

(注2)本稿では書きにくい事であるが、アカデミアでも理解できない問題であることが後にわかった。均一な物質の誘電体論では説明できない現象である。

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