2013.07/25 科学と技術(4)
教科書に書かれていることを絶対視する人は多い。教科書には過去の知識がまとめられているに過ぎない。教科書で科学的方法論を身につけ活用することは重要であるが、教科書に書かれた知識に束縛される技術者は損をしている。
例えば、白川先生が高分子導電体を発見されたときに高分子半導体という教科書が先端の教科書として販売されていたが、一瞬にして過去の遺物となった。当たり前のことだが、その教科書には高分子に導電性を持たせる方法は導電性の高いカーボンを分散する技術以外に方法が無い、と書かれていた。導電性ポリアセチレンの話など一言も触れていなかった。
白川先生の導電性高分子発見のニュースで、1ケ月前に大学生協で購入した本がその日にゴミとなったのである。食べ放題の焼き肉屋へ2日通えるお金が無駄になったショックは大きい。この時科学の進歩の残酷さを身にしみて知った。
高分子のレオロジーの教科書も似たようなところがある。30年以上前はバネとダッシュポットのモデルでレオロジーを解説した教科書しかなかった。今でも時代遅れの教科書にはバネとダッシュポットを用いて高分子のレオロジーを解説しているが、すでに高分子鎖1本の粘弾性データが得られている時代である。やがては高分子物理というタイトルでまとめられるだろうが、高分子のレオロジーというタイトルは過渡期のような気がする。高分子のレオロジーから目を離せない。
高分子のレオロジーを勉強するにはどうしたらよいか。専門外の人にはやや馬力を要求されるがOCTAの日本語マニュアルが良いのではないかと思う。2000年前後に当時名古屋大学土井教授がリーダーになって開発されたOCTAは、今でも開発が続けられている世界に誇れる国研の成果である。無料で中身の濃い説明書をダウンロードできる。OCTAを使えなくても、この説明書を理解するだけで価値がある。
高分子のレオロジーについてはバネとダッシュポットのモデルを忘れた方が良いかというと、過去の遺物が意外と便利に使えることがある。アイデアを練るときにオブジェクトを抽象化する作業をする場合があるが、この時バネとダッシュポットのモデルを使うと便利である。また、複合材料を設計するときなどバネとダッシュポットのモデルは重宝する。すなわち高分子材料技術の一手段としてバネとダッシュポットの考え方を身につけておくと便利である。
このような事情で高分子のレオロジーは、科学と技術が混在しており教えるときに苦労する分野ではないだろうか。今の時代は科学として教えるよりも技術として実験の結果など実践に準じて教えた方が良いように思う。
科学の教科書は方法論あるいは考え方を学ぶには重要である。しかしそこに展開された知識にとらわれすぎると新しいアイデアを否定することになる。技術の世界では「必要は発明の母」と考え、自由にアイデアを出すべきである。そのために弊社の問題解決法がある。
カテゴリー : 一般
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