2013.08/10 科学と技術(18)
昨日実験計画法を行うときには相関係数を用いると良い、という話を書いた。これはタグチメソッドの表現では感度を配置している事と同じで、感度を最大(あるいは最小)にする因子を探る方法となる。SN比とは異なるので必ずしも得られた結果のロバストは高くないが、当時新材料を開発し機能の最大を求めるのがミッションでもあったのでタグチメソッドもどきは大変役にたった。
何故相関係数を用いると実験計画法が当たるようになるのか、難燃化技術を開発しているときにはよく分からなかった。当時LOIのリン濃度依存性で求められる相関係数を用いていたのだが、タグチメソッドもどきの手順で外側因子として難燃剤濃度を用いている状況と類似している。タグチメソッドでは、外側因子でSN比が求まるわけであるが、タグチメソッドもどきでは感度を求めている。
タグチメソッドの教科書にはSN比最大を求めることが大切で感度を追究することはロバスト最高を保障しない、と言うようなことが書かれている。このあたりについてかつて故田口先生(注)は、技術的に必要なときには感度最大の制御因子を選んでも良い、と柔軟であった。ただし、これは小生だけだったのかもしれない。小生は田口先生にタグチメソッドもどきの体験をお話ししたが、笑っておられた。
タグチメソッドの存在を知らなかったが、タグチメソッドもどきがあったので、SiC-TiC系の切削工具開発を迅速にできた。特許を回避する目的と焼結を液相焼結で進めサーメットに近いセラミックスの設計を行った。液相焼結ではSiCは異常粒成長しやすい問題があるがホットプレスを用いると防ぐことが可能である。助剤はAl、B、Feの3種から選択することにした。
タグチメソッドもどきで最適化したところ、Alが選択され、Si-Ti-Al-C組成の硬度は一般のサーメットよりも高く靱性もサーメット並に高いセラミックスが得られた。高山にある切削チップを製造するマシンを販売しているW社に依頼し、切削チップの形に加工してもらった。東京都立工業試験所に切削チップを評価しているグループがあり、そこでチップの評価をお願いした。
驚くべき事に鋳鉄を切削可能で、サーメットよりも優れBN系に近いとの評価を頂いた。この評価結果を持って本部長報告を行った。1ケ月で新材料を開発し、新商品を仕上げたことは評価されたが、事業化検討テーマにはならなかった。そのかわり、また1ケ月後新商品テーマを持ってくるように言われた。数ケ月間同様の事が続いたが、結局高純度SiCに真正面から取り組むことだ、と言うことになり、解放された。このゴタゴタの時期にフェノール樹脂を助剤にした半導体用セラミックスヒーターの企画は生まれている。
このとき、新材料開発ではタグチメソッドもどきが活躍した。科学的な考察も加えてはいたが、最適化はタグチメソッドもどきで行っている。科学的にアイデアを出すときの問題点は、公知の情報程度のアイデアしか出ないことにある。SiCがカーボンだけで焼結することが学会では信用されず、焼結理論さえ怪しく、ファインセラミックスの相図などまだ充実していなかった時代に、科学的に技術開発を進めることは頭の良い方法では無い。大胆な仮説と常識にとらわれない実験が重要である。
セラミックスフィーバーの時代にセラミックスの科学は大きく進歩した。しかし、この時代の技術開発は、科学の無い時代の技術開発に近い状態であった。ただ、既存のセラミックスの教科書に異を唱える研究者の科学的な新説の発表もあり、活用できる情報は幾つかあった。
(注)昨年お亡くなりになりました。
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