2020.10/26 ブリードアウト(3)
最近昔ながらの加硫ゴム製の消しゴムを見かけなくなった。紙のケースに入ったTPE製の消しゴムばかりだ。この消しゴムのケースには、紙製のケースを取り外さないようにとの注意書きが小さく書いてある。
誤ってこの紙ケースを取り外して使用し、その後放置して事務机の引き出しのポリスチレン製(PS製)のトレイに消しゴムをくっつけた経験はないだろうか。
これは、PSと消しゴムが界面で混ざり合って完璧な接着状態になったためだが、この観察を行うとブリードアウトという現象が添加剤の溶解と添加剤の拡散速度の問題だけで考えていてはいけないことに気がつくはずだ。
高分子は室温に相当するエネルギー状態で様々な運動を行っている。Tgが室温以上の高分子でも自由体積部分では高分子の一部が運動状態であり、さらに全体にわたって一次構造の方向にレピュテーション運動が行われている。
そのため俗称樹脂消しゴムと呼ばれている消しゴムはPSと接着したのである。また、カオス混合装置を用い混練りすると、PPSと6ナイロンは相溶して透明なストランドを作ることができる。
ところが、これを室温で放置しておくと失透してきて6年経つと真っ白となる。これはPPSに相溶した6ナイロンがスピノーダル分解を起こし、遊離してくるためである。
PPSや6ナイロンのTgは室温よりも高いし、両者は耐熱用途にも使われたりするエンプラだ。それでも室温でスピノーダル分解を起こすことにびっくりするのだが、レピュテーション運動を理解すれば納得できる。
面白いのは6ナイロンが遊離してきてもストランドの柔軟性が失われないことだが、6ナイロンが10wt%未満であれば、相溶状態で測定された接触角も変化していない。
もっとも接触角の測定誤差は大きいので見かけだけの現象かもしれないが、ストランドの柔軟性が失われていない現象には驚かされる。PPSの球晶もナノオーダーで成長が止まっている可能性がある。
カオス混合で製造されたPPSへ6ナイロンが相溶したストランドはブリードアウトについてもヒントを教えてくれるが、二軸混練機にカオス混合装置を取り付けて混練を行わなくてはいけない。
かつては蘇州ナノポリスで実験を行うサービスを提供していたが、コロナ禍を機会に中国の仕事を整理した。おりしも米中関係が怪しくなり、中国で働く企業技術者やアカデミアの研究者に対する批判が週刊誌に書かれるようになった。
中国軍事産業に直接協力している技術者や研究者はほとんどいないように思っている。当方も民生用樹脂材料の研究開発を指導してきたのだが、民生用の技術が軍事産業へブリードアウトすると言われても責任を持てない。
しかしそこを問題としたならば国際協力などできないし、中国人を雇用したり、中国で生産すること自体も軍事協力しているようなものだ。
ある週刊誌が実名入りと称し、中国の科学技術に協力する日本の研究者の記事を掲載していたが、その意図がよくわからない。
国際協力の問題はブリードアウトより難しいので中国の業務を当面中断するが、どこかでカオス混合の研究の場を提供してくれるところがないのか探している。
国の補助金でも頂ければどこかに試作場所を確保するのだが、3回も提案して採用されなかったので蘇州で研究開発をしてきたのだ。7年研究してきていろいろわかってきたことがある。カオス混合は単なる伸長流動ではない。
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