2013.10/04 高分子の難燃化技術とノウハウ(2)
30年以上前に存在したJIS難燃2級という規格は欠陥規格であったために簡単に燃えてしまう天井材の普及を促し問題となった。当時硬質ポリウレタンフォームの軽量天井材が現場の施工で好評であったがJIS難燃2級から新しい簡易耐火試験に規格が変更されてからフェノール樹脂発泡体へ置き換わっていった。この規格見直しの引き金となったのは、以前紹介した餅のように膨らむ硬質ポリウレタンフォーム天井材である。
この餅のように膨らむ硬質ポリウレタンフォームは科学的な材料設計の成果として開発された。餅のように大きく膨らみ変形すれば火元から材料が逃げることができ、その結果延焼を防ぐことができる、という「仮説」(注)で材料設計されたが、これは説明するまでもなく姑息にもJIS難燃2級の規格の欠陥をついた考え方である。この材料設計の危険性は実火災を考えれば明らかであり、餅のようにふくれあがり一瞬火から逃げることができても、LOIが21以下の材料では引火したら新たな火源となる。
技術的に考えるときには機能が重要なので、「火がついても消える材料」、という最低限の機能を持った材料を設計しなければいけない。このような設計を実現するためのノウハウは、「溶融型(ドリッピング型)」か、「炭化促進型」で材料設計をするかのいずれかである。これが筆者のノウハウで、このノウハウでPETを8割ほど含む樹脂でUL94-V2を通過できる材料設計を1ケ月で実現している(実験室評価)。
他の技術者の中には、これ以外のノウハウを持っている方がいるかもしれないが、高分子の難燃化設計を行うときに、この2つのノウハウによる実現の可能性を筆者の場合には考える。そのために設計対象の材料でまず燃焼試験を自分で行うか、自分でできない場合には必ず試験の時に立ち会うことにしている。そして燃焼挙動から、難燃化設計の方針と到達レベルを予測する。これは難しいことではない。
UL94-V2レベルならば溶融型でも炭化促進型でも達成できるがV0になると炭化促進型でなければ実現できない。もしドリップが激しい樹脂であれば、溶融型の設計でまずV2レベルを狙い、V0は溶融しない樹脂とのブレンドを検討することになる。
PETはTgが低く着火すればすぐに溶融が始まる樹脂なので70%以上のPET含有率の樹脂を設計する場合にはUL94-V2レベルの樹脂が目標となり、UL94-V0を目標とするならばPET含有率を50%以下にして炭化促進しやすいPCなどとのブレンドで材料設計を行う。
このノウハウは環境樹脂としてよく知られているポリ乳酸樹脂の設計でも使われており、例えば電気機器の外装材ではUL94-5Vbが目標となり、ポリ乳酸樹脂の含有率を30wt%前後まで下げて材料設計されている。30wt%前後しかポリ乳酸が含まれていないにもかかわらずポリ乳酸樹脂と呼ばれたりするのは少し奇異に感じるが、ポリ乳酸を70wt%以上含有する樹脂でUL94-5Vbを通過する材料設計はノウハウから判断して、開発工数も含めかなりのコストアップとなる。しかし、炭化促進型で強相関ソフトマテリアルの考え方を用いれば可能と思われる。
(注)昨日も触れたがこのような命題は、真理を追究する科学の仮説とはよべない。
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