2013.10/06 高分子の難燃化技術とノウハウ(4)
溶融しやすい樹脂を70%以上含む場合は、炭化促進型で難燃化が難しい、と述べてきたが、できないわけではない。開発に時間がかかるのである。もし2年程度の時間があれば、目標とする材料を開発できるかもしれない。かもしれない、と書いたのは、2年も基礎検討を行った開発経験が無いからだ。
但し、溶融しやすい軟質ポリウレタンフォームを半年で炭化促進型により難燃化した経験がある。ホスファゼンで変性した軟質ポリウレタンフォームは、ホスファゼンの添加量が7wt%前後でもASTMの試験で溶融物が生じない状態で炭化促進型の難燃化を実現している。
イソシアネート化合物とのプレポリマーを合成して反応型難燃剤に設計し軟質ポリウレタンフォームに応用した。入社2年目の成果を出せた、と思ったら始末書を書かされた。市販されていない難燃剤を使用したので量産できないことが問題になった。今から考えればこれは管理者の問題であるが、無知な新入社員が勝手にやった仕事として扱われ責任を取ることになった。当時は責任を取れるぐらいの立場になった、と勘違いして始末書を躊躇せず書いた。
後日開発管理部長から褒められたので訳が分からなくなった。始末書も初めての経験ならば、それが原因で褒められたのも最初で最後であった。サラリーマンを終えてみると開発管理部長が褒めてくれた理由がよく分かる。責任感の欠如した管理者に対して責任感のある新入社員という構図である。自分が開発管理部長の立場でも褒めたくなる。ただ、責任感の欠如した管理者をなぜ誰も注意しなかったのか、という疑問は残る。ゴム会社ではこの始末書を初めとして褒められるよりも叱られた記憶の方が多いからだ。12年勤務して多くの方から叱咤激励され大変勉強になった。
ところでホスファゼン誘導体はリンの含有率が高く、リン酸エステル系の難燃剤に比較すると同一添加量でリンの添加量を多くできる。また、一般のリン酸エステル系難燃剤は燃焼時にオルソリン酸の形で揮発するが、ホスファゼンは燃焼時に揮発せず、系内に残り難燃化の機能を果たすので、溶融物の增粘に効果がある。
しかし、いつでも增粘効果が十分に発揮され溶融物を抑えるわけではない。溶融の激しい樹脂では、ホスファゼンをかなり大量に添加しなければ燃焼時の溶融を抑えることができない。ホスファゼンは大塚化学の努力で最近価格が下がったが、まだ一般の難燃剤に比較すると高価なためコストの問題が発生する。コストのバランスを取りながら、溶融しやすい樹脂を70wt%以上含有し炭化促進型で難燃化する技術は、難易度が高く開発時間がかかる。
ホスファゼンは側鎖を変性し様々な誘導体を合成可能である。ゆえに難燃化しようとする樹脂に分散しやすい構造の高分子量体を20%程度添加(この時難燃化をしたい樹脂は80wt%の含有率になる)すれば炭化促進型の難燃化を達成できるかもしれない。しかし、その時の樹脂の他の物性については予測不可能である。溶融型システムで強相関ソフトマテリアルの設計を行い難燃化した方が経済的で樹脂の物性バランスも取りやすい。
pagetop