2012.09/06 酸化スズゾルの帯電防止技術から学んだこと(1)
高純度の酸化スズゾルに含まれる粒子(以下酸化スズゾル粒子)は、アンチモンを不純物として含む結晶質の酸化スズ粒子(以下不純酸化スズ粒子)に比較すると、導電性は1000分の1以下です。従って高分子のバインダーに分散し、帯電防止層として必要な導電性を得る時に、低い技術的難易度のため不純酸化スズ粒子が好んで選ばれます。特に溶媒として水を用いるときには、酸化スズゾル粒子は導電性が悪いだけでなく水中において分散性が高いので、塗布したときに、パーコレーション転移が生じにくく、抵抗が下がりにくい(導電性が出ない)。パーコレーション転移が生じにくいので、導電性を出すためにはパーコレーション転移を制御する技術が必要になる。このパーコレーション転移の制御方法について、特公昭35-6616特許には書かれていなかったために、ライバル他社も含め実施例の再現が難しかった。しかしできあがった帯電防止層の特徴について、30年経過しても再現可能な科学的データが記載されていたので当時特許として成立したのでしょう。
酸化スズゾル粒子とパーコレーション転移制御技術を組み合わせて実現した帯電防止層の透明性は極めて高く、透明樹脂フィルムに塗布してもその透明性を損なわない。不純酸化スズ粒子を用いた帯電防止層の場合にはわずかに透明性が劣化するので、透明フィルムの帯電防止層に用いるには、酸化スズゾル粒子の方が好ましい。しかし、ライバル他社も含め1993年まで酸化スズゾル粒子を用いた帯電防止層を商品化できなかった。パーコレーション転移制御技術の難易度が極めて高かった為であるが、運良く技術開発を行った時がタグチメソッドの普及期で、田口先生のご指導を受けることができた。
田口先生のご指導を受けたときに、ロバストの観点で不純酸化スズ粒子を用いる技術を選択する方が正しい、と言われた。ご指導を受けたときの最初の実験結果で、不純酸化スズ粒子を用いた帯電防止層のSN比が高かったからですが、タグチメソッドを用いてパーコレーション転移制御技術を最適化したところ、SN比が逆転した。この結果をご覧になった田口先生は、酸化スズゾル粒子を選択する方がよいでしょう、と言われました。田口先生をご存じの方は、このあたりのニュアンス並びにこの結果に至るまでの実験の苦労をご理解頂けると思いますが、パーコレーション転移制御技術が完成した瞬間です。
田口先生のご指導を受ける前まで、化学的な視点からパーコレーション転移を制御するのに最適な条件を採用し技術を創り上げていましたが、品質工学的に最適化を行っていませんでした。タグチメソッドを用いて最適化を行ったところ、化学的に最適化した条件から少しはずれた結果となりました。パーコレーションという現象が確率過程を含む現象のため、ある程度はこの結果を予想していたのですが、田口先生の満足された表情が印象的でした。
化学は科学の一領域です。パーコレーションを制御するためには、化学と物理学の両面の知識が最低限必要です。パーコレーションという現象を科学的知識だけで制御する試みは、うまくいけば運がよかった、と捉えるべきで、ロバストの高い技術として完成するためには、技術開発力が要求されます。この意味で、技術は科学的知識以外も包含し、タグチメソッドの習得は、技術開発力を高める一つのソリューションと思っています。また、このような表現は誤解を招くかもしれませんが、タグチメソッドは「工学的技能」として優れており、汎用化されていますので、メーカーであればどこでもその導入効果を感じ取ることができます。
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カテゴリー : 高分子
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