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2021.04/24 アイデアの出し方(6)

PPSと6ナイロンを相溶させたカオス混合技術は、ゴム会社で担当した時の「防振ゴム用樹脂補強ゴム」開発で仕込んでいたリックを展開したものだ。


このゴム開発では、樹脂とゴムが一度相溶したと仮定しない限り実現できない高次構造の材料が得られている。指導社員に厳しく言われたSP値の測定で得られた情報をもとに研究開発した結果、たった3か月で全く新しい配合処方と材料を見出すことができた。

すこしモザイクをかけたような表現になっているが、これは当方のノウハウなので詳しく書いていない。詳しく知りたい方は問い合わせていただきたいが、この指導社員から厳しくしつけられた習慣から幾つかのリックが生まれている。

それらは科学的ではないので、指導社員は「誰にも言うな」と言われた。なぜなら研究所で科学的ではないことを話すと仕事の品質を疑われるからだと指導された。

ゆえに樹脂補強ゴムの成果を論じた報告書にはこの開発で見出されたリックも含め書かれていない。しかし、当方の経験知と暗黙知として整理された。

ちなみに研究報告書には何が書かれていたのかと言うと、当時レオロジーを語る時の定番だった、ダッシュポットとバネのモデルで材料評価を科学的に論じている。ご存知のように今レオロジーを科学的に語る時にダッシュポットとバネのモデルは過去の形式知との比較議論の時ぐらいである。

この報告書では材料の製造プロセスや出来上がった材料の高次構造について科学的に検証可能な情報は全て書かれていたが、経験知や暗黙知はすべて排除された。科学論文とはこのような成果論文である。

だから報告書として完成すると図書室に収められ二度と読まれることがなかった。当方は12年ゴム会社に勤めたが、過去の研究所の報告書を読んだのは、なぜFDを壊されたのか知るために、界面活性剤では電気粘性流体の耐久性問題を解決できない、と結論された報告書だけである。

その報告書を読み、執筆者の高度な形式知に感心したが、報告書に書かれた内容は当方の頭の中に形式知として整理されていた知識だけだった。報告書を読み終わって気づきも無ければ学びも無かった。おそらく少し界面活性剤について詳しい方にとって当たり前の内容だったかもしれない。しかし、当時研究所を管轄するI本部長はこの報告書を高く評価されていた。

このような科学的に完璧な報告書でも経験知と暗黙知により一晩で創出された技術によりひっくり返されることがあるのだ。形式知により否定される現象を前にしたときに、本当に形式知に基づく結論を信じてよいのかは、慎重に考える必要がある。

科学の否定証明の罠にかからないためには、科学を正しく理解し科学的に考えるべきシーンを明確にするとともに技術でモノを考える習慣が重要となる。例えば多数のデータからヒューリスティックな解をあらかじめ求めて、それから科学的に仕事を進める慎重さをもちたい。

電気粘性流体の耐久性問題では、プラスチック発泡体の開発で学んだ形式知から界面活性剤の適用が解として否定されることが分かっていたので、多数の界面活性剤の物性値を主成分分析することによりヒューリスティックな解を最初に求めている。

ドラッカーは、頭の良い人たちが成果を出せない問題を嘆いていた。その原因として「正しい問題」を解かないからだ、と諭している。

電気粘性流体の耐久性問題について、それが「界面活性剤で解決がつくかどうか」は問題ではない。「界面活性剤で解決しない限り実用化できない」問題であり、科学的な解として界面活性剤では解決できないとなっても、界面活性剤で何とかしなければいけない技術の問題である。

ところで、樹脂補強ゴムの報告書を書くときに排除された経験知や暗黙知が普遍的な形式知かどうかを確かめる機会が無く30年経った。自ら左遷を申し出て単身赴任し担当した中間転写ベルトの開発でその機会が生まれ、カオス混合装置を発明できた。

この発明は、それをしない限り中間転写ベルトの実用化が不可能な状況だったので、試行錯誤(タグチメソッドを用いている)により30年以上前の経験知で仕上げている。国内トップクラスのコンパウンドメーカーの技術者は科学者として優秀だったが、科学にとらわれ数年かけてもコンパウンドを完成させることができなかった。

当方はそれを非科学的と批判された方法を用いて3か月で仕上げている。フローリーハギンズ理論や分散混合と分配混合で考える混練の形式知からみれば非科学的かもしれないが、短期間にモノができたのである。

技術のニッサンが、倒産しそうでしなかったり、とんでもない社長でも消費者に感動与える様な車を生み出している。おそらくいつの時代でも「科学のニッサン」を目指さなかったためではないか。20世紀の日本は科学一色だったが21世紀の日本は、技術の日本を目指すべきではないか。

カテゴリー : 一般

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