2013.11/01 多変量解析とタグチメソッド
多数の設計因子が複雑に絡んでいる問題は、ラテン方格を利用してタグチメソッドで解決される場合が多い。しかし多変量解析を用いて問題解決することも可能である。ただしその時にロバストの保証は工夫する必要があるが、現場の問題の中にはタグチメソッドで解きにくい問題もある。その様な時には多変量解析が役立つ。
例えば混練に用いた二軸混練機が異なると、その仕様が同一であってもポリエチレンの流動特性が異なることが知られている(注)ように、高分子材料の物性はプロセスの履歴に影響を受ける。これは、ポリエチレン以外の樹脂でも射出成形条件が樹脂のロットに左右される問題として存在し、とりわけ精密部品で深刻な悩みである。毎朝数ショットを試し打ちし射出成型条件を微調整してから生産を始める方法で問題解決している。
これらはタグチメソッドで解決できるかどうか、という議論とは異なる問題として捉え、どのように生産を早く立ち上げることができるのかシステムの工夫などのノウハウを見つけることこそ大切である。
コンパウンドをノイズとして扱い、成形プロセスの最適化を行えばタグチメソッドで解決できる、とタグチメソッドのコンサルタントは指導されるかもしれない。その手順で解決がつく場合もあるが、解決つかない問題も存在していることを認めることはタグチメソッドの信頼性を正しく流布するために重要である。
このことは、品質工学フォーラム創設時の会誌に竹とんぼの事例が載っており、タグチメソッドで最適化したけれど安定に飛ぶ竹とんぼを完成できなかった話題が紹介されている。正直な記事である。およそ何でも切ることができるハサミとか、どんな金属でも穴を開けるドリルとか、万能をうたっている商品には怪しい香りがする。道具は適材適所で使うのが原則で、タグチメソッドもそのような道具の一つである。
またタグチメソッドで解決つくかもしれないが、タグチメソッドで解決するよりも開発速度が速く、日々の生産も効率が良くなるノウハウが存在する場合も無理矢理タグチメソッドを用いる必要は無いと考えている。この時のノウハウとして多変量解析が使われる場合がある。
かつてNHKで放送された“ものつくりの現場”の番組で車の窓に使用されているゴムパッキン(ゴム枠)の押出工程の話題を扱っていた。ゴムパッキンの生産開始時には数度ゴムを押出し、図面で寸法精度を確認しながら金型の温調や冷却タイミングを決める、そしてその方法と金型設計が属人的ノウハウである、として紹介されていた。現場の紹介ビデオでは、金型と冷却ゾーンにモザイクがかかり怪しい雰囲気を醸し出していたが、金型からは多数の電源コードが下に垂れていた。
高分子の押出金型のヒーターを多数に分割し、金型内を流動する高分子材料のレオロジー特性を温度で制御する方法が知られている。このときヒーターの分割方法や金型の口金など金型設計はノウハウで高分子材料の成形を事業としているメーカーのコア技術である。
どのような材料が流れてきても設計図どおりの寸法のゴム部品を押し出すことができる技術は技の世界である、とNHKの番組は伝えたかったのだろうと思うが、この技術はタグチメソッドでも問題解決が難しい。むしろ融通の利く多変量解析でロバストの高い方法を探った方が問題を早く解決できる。
高分子材料はそれ自身ノイズを多く含んだ材料である、という感覚は重要で、未知のノイズが生産現場で突然現れることもある。現場の問題によってはタグチメソッドで解決するよりも素直に変動を認め多変量解析で安定生産を行うノウハウを構築した方が良い場合が存在する。
蛇足であるが、高分子材料に含まれるノイズは混練技術によりその変動を小さくできる。ゴムの混練はコストの高いバンバリーとロールの組み合わせプロセスで1世紀以上行われてきた。生産効率の高い多軸混練機が発明されても使用されていない。これはゴム部品の品質を安定化するためにコストの高い混練システムを採用しなければいけないからである。樹脂の混練技術者がゴムの混練技術に学ぶべきところは多い。
(注)これはタグチメソッドを用いても解決つかない問題の一つである。もちろん多変量解析でも解決はできない。システムを変更しなければいけない問題である。問題解決可能なシステムとノウハウがあるので弊社に相談して欲しいが、“システム選択は技術者の問題“というのは故田口先生の口癖であった。この意味の中にはタグチメソッドで問題解決できないシステムが存在する、という意味も含まれている。扱うシステムによっては、タグチメソッドで問題解決できる場合、多変量解析で問題解決した方が簡単な場合、そのシステムを諦めた方が良い場合等について問題解決の道具を使う前にまず考えることが重要である。
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