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2013.11/07 樹脂補強ゴム(1)

ゴム会社で技術者としてスタートした。6ケ月間の新人研修の後10月1日に樹脂研究グループへ配属された。そこではスーパーフィラーに採用された樹脂補強ゴムの研究開発が行われていた。スーパーフィラーは、タイヤのビード部分に実用化された樹脂補強ゴムで硬くて弾力性のあるゴムだ。

 

硬いゴムを設計するには、架橋密度を上げる方法とフィラーであるカーボンブラックを増量する方法が知られていた。しかし、この両者の方法でゴムの硬度を上げると靱性が下がる。硬くて脆くないゴムの処方技術は当時ハイテク分野の技術であり、ミシュランが最初にその開発に成功し、半年遅れてブリヂストンが実用化に成功した。この時使われたのが樹脂補強ゴムで、樹脂は3次元化して硬くなる熱硬化性のフェノール樹脂が使用された。

 

この樹脂補強ゴムの高次構造は樹脂の海の中にゴムの島が存在する海島構造で、フェノール樹脂以外の樹脂でも同様の高次構造を取ることができれば、硬くて靱性の高いゴムを設計できるのだが、組み合わせる樹脂の種類によりゴムの高次構造が変化し目標物性とほど遠いゴムができたりするので、多種類の樹脂とゴムの中からその組み合わせを見つけなくてはいけない難しい技術であった。

 

樹脂補強ゴムは硬くても靱性の高いゴム、という物性の特徴以外に、動的粘弾性に一般のゴムと異なる特徴が見られた。すなわち樹脂補強ゴムでは損失係数が高くなる周波数領域が広がるのだ。例えば自動車では、アイドリング中と走行中ではエンジンの振動数が異なり、アイドリング時にも走行時にも対応してエンジンの振動を防ぐ防振ゴム材料の設計は難しい。しかし、樹脂補強ゴムでは広い周波数領域でエネルギー損失が大きいゴムを設計できるので、使用状態で振動モードが変化する機器の防振ゴムとして最適な材料を設計できる。

 

指導社員は材料物性に秀でた能力の方で、樹脂補強ゴムの設計について組み合わせるゴム物性と樹脂物性のあるべき姿をシミュレーションで明確にしていた。そして、その明確な方針の下で材料探索を行うのが新入社員としての一年間のテーマであった。指導社員の立案された開発計画と材料設計処方案は完璧であった。あまりにも完璧で、残されていたのは樹脂とゴムの粘弾性を評価し、それを組み合わせたときに粘弾性がどのように変化するのか調べる肉体労働だけであった。

 

そして目標通りの粘弾性カーブを実現するゴムができたときに、組み合わせられた樹脂とゴムの粘弾性のカーブがシミュレーションどおりになっていることを確認するだけであった。但し樹脂の分子構造とゴムの分子構造はシミュレーションでも不明だった。

 

 

カテゴリー : 一般 連載 高分子

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