2021.06/08 とにかく生きる事
昨日トヨタ自動車で入社3年目の若者の自殺に対してパワハラが認定され、社長が謝罪したとの記事があった。入社3年目と言えば、サラリーマンとして会社から一人前に扱われる頃である。
各会社のルールがどのようになっているのかしらないが、当方が入社した時代に2年間は残業申請も認められず、業務の評価査定もつかないルールだった。
すなわち、2年間は見習いとして、とにかく上司の言われるままに仕事をこなし学習する期間であるとの指導が新入社員研修であった。
ゆえにこの2年間は奴隷のように働かせられて退職する同期もいたりする、今ならば信じられないブラック職場も存在したが、大抵はそれが普通だと思っていたから、退職する社員は少なかった(人事部からこの期間の退職は採用年度に差があるとの説明があった)。
研究所に配属された当方は、まだ若かったので1年の予定のテーマを3か月で仕上げるだけの体力があった。実際に「樹脂補強ゴムを用いた防振ゴム」というテーマを3か月で仕上げたところ、職場異動となり混練の神様から美人の指導社員に代わり、難燃性ポリウレタンフォームについて企画のお手伝いを指示された。
そこでホスファゼン変性ポリウレタンフォームを提案し、6か月後には工場試作まで成功させたところ、褒められるかと思っていたら始末書を書くことになった。
2年間査定がつかないのだから、新入社員が仕事をやりすぎたことを理由に始末書を書かせられるのはおかしいと思っていたら、どうも原因は違うところにあり、主任研究員は「テーマを提案したのは君だから君の責任だ、だから始末書を書け」という。
すなわち仕事をやり過ぎたことではなく、ホスファゼンという新素材を工場試作に用いた点が問題となっていたようだ。このあたりはすでに過去にこの欄で書いているので省略するが、この時の上司との会話は明らかにパワハラだった。
当方は新入社員だったので、なぜ新入社員が始末書を書かなくてはいけないのか納得できないことを正直に述べたところ、声が大きい、と小さな声で叱られた。どうも上司は周囲に知られたくないようだ。
小さな声でパワーをかけてくるのだが、上司が小声になればなるほど当方の声はますます大きくなり、始末書を書く書かないの議論はヒートアップしてゆく。タイミングよく指導社員が来て、その場は収まった(管理職だけの大部屋でこのような議論をしていたので他部署の管理職が指導社員を呼び出したようだ)。
その後、燃焼時にガラスを生成して高分子を難燃化する、高純度SiCの技術につながる画期的な発明の企画を提案した始末書を提出している(この難燃化技術については、当時画期的技術であり当方が難燃化セミナーや各種講演会に招聘されるきっかけになっている。ゆえにこの時の始末書は運が良かった、と思い出すことができるが、当時は—。)。
本来はリーダーが責任を取るべきところを残業代も査定もつかない新入社員に責任を取らせるところがすごい会社だと感じたが、当方が偉くなって組織を変革しようというぐらいのうぬぼれもあったので転職など考えなかった。
若い時にはこのような会社内の不条理に悩まされる。不条理だけではない。当方はFDまで壊されるほどの業務妨害も受けたが、まだ生きている。
若い人に是非守っていただきたいことは、「業務上の問題で八方ふさがりとなった時に選択肢として「死」を絶対に考えてはいけない、サラリーマンの最後の選択肢は死ではなく転職である」ということだ。
定年を迎えてみると理解できるのだが、組織で働く立場ではどのような上司同僚と巡り合うのかは運であり、また自分の意志でその組織を選んだ場合には自己責任である。それゆえ、人間の命と引き換えにする理由とはならない。
自己責任と感じたならば、その組織で責任を全うするのか、その組織がそれだけの価値が無いと判断し退職するのかなどが選択肢となる。運が悪いならば諦めるか、思い切って退職し運の流れを変えるのが賢明である。
当方はこの人物の下ならば死ぬほど働いても後悔しない、と思いたくなるようなリーダーに無機材質研究所留学時に出会ったが、それは宝くじに当たるぐらいの確率だったのだろうと思っている。自分の命を懸けるほどの恋は小説になったりするが、それはそれほどの人物に出会うことが夢物語であるからだ。
また、優れたリーダーが日本に溢れているならば、気の利いたコロナ対策が行われていただろうし、もう少しGDPが上がっても良い。不満があるならば夢を持ち、自分がリーダーになる時を待てばよい。それができないならば転職なり退職し、新しい組織を起業する、そうした活動を多くのサラリーマンがすれば、日本はもう少し良くなる。自分で死を選んではだめだ。
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