2013.11/25 SiCの線膨張率
SiCには結晶系の異なるα-SiCとβ-SiCの2種類が有り、α-SiCは積層形態でさらに多数の結晶に分類される。これをポリモルフィズムというが、セラミックスの力学物性を考えるときに立方晶であるβ-SiC以外の結晶ではその異方性が問題となる。
無機材質研究所へ留学したとき、最初に担当した仕事は、6H型SiCの線膨張率に観察される異方性を計測する仕事であった。四軸回折計に取り付けた6H型SiC単結晶にレーザーを直接照射し、昇温しながらX線回折を計測して結晶の座標を決め、線膨張率の異方性をその場観察したのだが、とても企業でできる実験ではない、と思った。
しかし、科学としては異方性の存在とその大きさを実験結果で示す必要があり、その異方性の割合が物性にどの程度影響を与えているのか明らかにするのは重要な仕事である。重要な仕事と分かってはいても何度も失敗をすると、何故この仕事をしなければいけないのか、と当時は考えることがあった。
おそらく自然科学の研究は、先人のこうした悩みや苦労の積み重ねの賜物なのだろう。a軸とc軸の線膨張の温度依存性というたった一つのグラフを作成するために3ケ月を費やした。樹脂補強ゴムの開発では、2ケ月で50以上ものグラフを書いた。そしてその結果3ケ月後には商品化できる配合処方が完成した。
学位論文の1ページにこの時のグラフがあるが、時々眺めては科学と技術について考えるヒントになっている。科学は真実であれば何年経ってもその価値は変わらないが、技術はいつでも新しい技術に置き換えられ、やがて忘れ去られてゆく。
カテゴリー : 電気/電子材料
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