2013.12/02 混練機構(3)
昨日分配混合と分散混合を説明したが、スタティックミキサーは、分配混合に特化した混合装置である。このミキサーには駆動部が無く、ねじれた流路で流体を交互に反転させて効率的な位置交換を行いながら均一化を進める構造になっている(注)。
スタティックミキサーは、その構造から粘度が低い流体の混合に用いられるが、注意しなければならないのは、分散粒径の微細化が得意ではないことである。すなわちメカニカルに微細化を進めることができないので、ケミカルに微細化する仕掛けを流体の中に仕込んでおかない限り、数ミクロンオーダーの構造の分散までが限界であることを知っておく必要がある。
このオーダーであると最終的な材料の力学物性に影響を与えるケースがでてくる。例えば弾性率が高い材料の場合には靱性に影響が出る。もしスタティックミキサーで混合して得られた材料物性の力学強度が期待された値よりも低い場合や脆さが期待された感覚よりも脆い場合にはスタティックミキサーを疑った方が良い。スタティックミキサーには流体の均一化には効果があるが微細化にはあまり有効な混合方法ではない。
スタティックミキサーのこのような欠点や分散粒径が靱性に影響を与えることはあまり知られていない。また引張強度や曲強度は、靱性と弾性率に影響を受ける。すなわち分散粒径は強度と関係することになる。ただ、分散粒径と靱性の関係は材料の弾性率が変化すると変わるのでこの点に気がつかないことがあるが、これは線形破壊力学に書かれている科学の話である。またスタティックミキサーの欠点に気がついたのは経験の話である。その経験では痛い目に遭った。
スタティックミキサーは簡便な混合装置なので普及しているが、高機能部品の製造ラインにも用いられているのを見てびっくりした。例えばシリコーンLIMSの処方を混合するときにスタティックミキサーが頻繁に使用されているが、高機能シリコーン部品を実現できる実力があるとは思っていなかった。しかし高機能シリコーン部品でしばしば品質問題が起きている、という話をよく聞くし、先の痛い目にあった経験はシリコーンLIMSを使用した部品である。強度の問題であればスタティックミキサーすなわち分散を必要とする材料のできあがった構造を疑った方が良い。
ところでウトラッキーの伸張流動装置は、ギャップの狭い鋭利な空隙に流体を通過させて高い応力で伸張流動を発生させ、分散混合を進める機構である。この装置の問題点は微細化を進めるために伸張流動を発生させている空隙が流動を妨げ生産効率を落とす問題である。現在樹脂生産に用いられている時間当たり1t以上の吐出量の混練を実現しようとすると実現不可能な大きさの装置となる。
特許は出ていないが、スタティックミキサーに伸張流動装置を組み合わせるのは良い方法で、本日この欄を読まれた読者は幸運である。シリコーンLIMSをスタティックミキサーで混合していて問題が発生したら伸張流動装置を組み合わせてみると良い。その他のアイデアもあるのでご興味を持たれた方はご質問ください。
(注)スタティックミキサーでも伸長流動と剪断流動が発生しているので微細化が進行する、と勘違いしている人がいる。バンバリーミキサーが微細化を不得意としているようにスタティックミキサーも微細化は得意では無い。微細化はできない装置とまで書きたいが、そこまで書くと間違いを指摘されそうなので書かないが、その程度の混合装置なので使用に当たって注意が必要である。スタティックミキサーで微細化を行いたいときには、化学の力をを必要とする。
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