2013.12/04 混練機構(5)
高分子とカーボンブラックの組み合わせで混練がどこまで進行したのかカーボンブラックの分散状態から決めるのは難しい。理由は、カーボンブラックの凝集体の分散が見かけ上一定になっても、力学物性が安定していなかったからだ。すなわち電子顕微鏡で観察したカーボンブラックの分散状態に差異が無くともゴムの力学物性に差が存在した。
新入社員時代に練習用サンプルの混練を行っていたとき、日々サンプルの分析を分析グループの女性陣が親切にやってくれた。指導社員がそのように手配してくれていたわけだが、日々力学物性と分析データをつきあわせる会議は担当者に囲まれ一瞬のうちに1時間が過ぎた。混練の難しい配合に四苦八苦している姿を周囲は「いじめ」に見ていたようだが、内心は竜宮城に通うような日々であった。そこで混練の進み具合をカーボンブラックの分散状態から探るのは難しい、という結論となった。
当時は混練の進み具合の指標がよく分からず、結局力学物性が最良の状態で安定したところが合格ラインという結論になったのだが、この問題を再度考えるチャンスが50代に訪れた。写真会社でラインから外され、自由な時間が増えた時だ。その時にこの問題を考えるため外部のメーカーにお願いし混練機を借り、混練で樹脂の部分自由体積の変化がどうなるか調べた。処遇が原因で業務に対するモチベーションが下がった場合には、腐るのではなく若く希望に燃えていた時代を思い出すのが一番である。
ポリオレフィン樹脂を小型バンバリーで混練し、部分自由体積の変化を調べたところ、30分以上混練すると部分自由体積の量が一定になることを見いだした。部分自由体積の軸とレオロジーのパラメーターの軸で混練条件の異なるサンプルをプロットしたところ興味深い結果が得られた。
市販のポリオレフィン樹脂だけで混練を行ったときの変化を観察し、混練で進むのが分散だけでなく高分子の変性も行われていることをデータで確認できたわけだが、この結果からカーボンブラックの分散が見かけ上均一に見えたとしても、混練が不十分であると力学物性が安定化しない、といった新入社員時代に体験した現象について理解できた。
若い時には辛い仕事を楽しい環境で推進できモチベーションが上がったが、50代は辛い環境で楽しい仕事を行いモチベーションが下がるのを防いだ。仕事が楽しければ面白いように成果が出る。「サラリーマン、腐ったら負け」という言葉があるが本当だ。
運良く社長まで昇進できる人もいるが、社長になっていたら若い時に竜宮城で頂いた玉手箱を開ける機会もなかった。運良くラインからはずれたため実験を行う時間ができて写真会社でゴム会社で出会った問題を解くことができた。「自由に何でもしてよい」とは、当時の上司の言葉だが、50過ぎのサラリーマンの身には一瞬残酷に聞こえたが竜宮城の玉手箱の存在に気がつき、幸運の一言になった。
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