2013.12/16 とにかく「創ること」の重要性
オカラハンバーグは、とにかくおいしいハンバーグを創ることに集中しとりあえず完成した。しかし、食材のコストの問題が残っている。研究開発において新商品を開発するときに多くの場合新技術を導入する。新技術が完成しそれを新商品に組み込む、という余裕のある研究開発のできる環境が理想だが、研究開発のスピードアップという観点に立ったときには、新技術と新商品の開発を同時並行(コンカレント)で進める手法が重要になる。
このコンカレントエンジニアリングを成功させるためには、企画段階で新技術を用いた商品を組み立ててみることが大切である。新技術ができていなくても、企画段階で結集できる最善の技術を組み合わせてまず商品を創り上げ、その評価を企画書とともに議論するとコンカレントエンジニアリングの成功確率が上がる。
ゴム会社で高純度SiCの事業をスタートしたとき、世の中はセラミックスフィーバーであったが、パワー半導体のマーケットもSiCウェハーを商品化している会社も無く、高純度粉末を開発できてもお客様がいなかった。
現在ウェハー事業で日本の中心企業になっている某メーカーへ高純度粉末の商品評価をお願いしたら、「実は当社もこの高純度SiCを開発しており、それを評価して欲しい」、といわれ高純度SiCの交換評価を行う、といった笑い話の体験もある。結局当時のU本部長から「テーマは0.5人で推進しろ」と言われ、0.5人工数の研究企画を求められた。
S社とジョイントベンチャーを立ち上げ再出発するまでの5年間、新技術の企画ばかりやっていた。そしてその時U本部長から言われたのは、「まず、企画書は入らないからモノをもってこい」である。ECD、フレキシブル常温超伝導体、セミソリッド電解質、燃料電池、切削チップ、SiC製ルツボ等外部のメーカーの技術や秋葉原のお世話になりながら世の中に無い新技術を不完全ではあるが、まず創った。
例えば、フレキシブル常温超導電体では、同僚の若手F君が常温超伝導体をすっぱ抜いた週刊紙を片手にその日のうちに評価装置を組み立ててくれた。週刊紙に載っていた材料は液体窒素温度で超伝導現象を示したが、面白いことに、1週間経過すると超伝導を示さなくなった。当時の超伝導体は生ものだったのである。
その結晶構造からすぐに酸素欠陥が増えるのではないかと仮説を立て、常温超伝導体が出現したときには酸素が抜けないような対策が重要と考え、ブチルゴムで覆った超伝導体という発明をすぐに出願した。そして、ブチルゴムで被覆された超伝導線を試作し超伝導体の研究企画を提出した。
ブチルゴムで包んだ超伝導体の板でマイスナー効果をU本部長に見せたのだ。それを見せながら、現在の材料では液体窒素温度でなければ超伝導を示さないが、これを改良して常温で超伝導体にする、とプレゼンテーションを行った。この企画は無事通り、1年間超伝導体の研究開発を行った。
最初にとりあえず不完全であっても「モノ」を創り出してみると、ゴールが明確になる。ブチルゴムで被覆した超伝導線の場合には、ブチルゴムのTg以上の温度で超伝導現象を示す必要がある。それ以下の超伝導体で酸素欠陥が増加するのを防ぐには金属で被覆する必要がある、といったアイデアも容易に出てくる。ゴム会社のU本部長は厳しい人であったがその指導のおかげで技術開発に注力する実践的研究開発を学ぶことができた。
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