2013.12/17 高分子の相溶(1)
2種類の高分子を混合したときに混ざって均一になるのかどうか、すなわち相溶するのかどうか、という問題は高分子溶液論から導かれたフローリー・ハギンズ理論(FH理論)で論じられχが0となるときに相溶する、といわれている。また、それぞれの高分子のSP値をモノマー構造から計算して、SP値が近い高分子は相溶しやすいとか議論したりする。
高分子の相溶性だけでなく、何か添加剤を高分子に添加したいときにその分散性を事前評価する場合にも用いられている。添加剤についてはカーボンブラックやチタンホワイトなどの粒子表面のSPなども提案され、微粒子が高分子に分散する状態を表現することに成功した、という論文もある。
ところでχパラメーターやSPは溶液論の延長から導き出された値である。これらのパラメーターを用いる高分子加工分野の大半は高分子を無溶媒で混合するプロセスであり、FH理論がそのまま当てはまる、と考えてよいのだろうか。ゴム会社に入社したときに最初に頭に浮かんだ疑問である。
高分子の相溶は高分子のアモルファス相(結晶になっていない部分、非晶相)で起きる現象である。高分子相溶系で結晶が生成し始めるとスピノーダル分解で2相に分離することはよく知られている。
ところが高分子のアモルファス相は無機のアモルファス相と少し異なる。また、アモルファスである無機ガラスと似ていると言われているが、やはり少し異なる。一応高分子のアモルファス相にもガラス転移点(Tg)が観察されるので、アモルファス相という言葉よりもガラス相という言葉が高分子の教科書で使用されている。
アモルファス相にはTgを持つ相と持たない相があり、Tgを持つ相の物質をガラスと呼ぶことはガラス工学の教科書に書かれているが高分子の教科書には書かれていない。すなわちガラスであるためにはTgを持っていなければならず、Tgは高分子の基礎パラメーターとして常識となっている。
ゴム会社に入社して、からかわれた思い出がある。今ならばいじめに近いが、ある高分子の示差熱分析(DSC)を測定していたらTgが出ない。これは新発見、と驚いたら、DSCの測定方法としてちょっとしたテクニックが知られており、そのテクニックを使用するとどのような高分子でもTgが出ると教えられた。しかしこのちょっとしたテクニックを知っていることは高分子研究者の常識だとからかわれた。
この思い出のおかげで高分子ガラスに疑問を持つようになった。大学院の生活は無機材料の、それもガラスも扱っている研究室でリン系の材料の合成研究をしていた。その時は、Tgがあるのか無いのかはガラスの判定基準であった。しかし、高分子の世界では、姑息な手段でDSCのチャートにTgがわざわざ現れるように測定するのである。これは科学としてインチキである。ただ、高分子のアモルファス相はガラスという常識があるからTgの無いDSCチャートではかっこつかないから姑息なテクニックが生まれたようだ。
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